呪いの発作
なんなんだ、この痛みは――。
激痛だ。「激痛」なんて言葉が優しく思えるほどの。 左腕全体が痛い。まるで荒々しく左腕の肉を剥かれているかのような痛みだ。杭を突き刺すような痛みとは違う。理性が吹き飛んでしまいそうだった。心臓がバクバクと鳴り、全身から汗が吹き出る。 すぐにミントが手を庇いながらオレを心配するが、この激痛を打開する手段を持ち合わせてはいないようだ。
「み、美紀……、ソラくんになにをしたの……?」
「私がやった、というよりは現象に近いかもしれないわ。……この針は本来、全身を数分間だけ麻痺させる即効薬のようなものよ。さっきの少年も同じ反応をしていたけれど……。……もしかしてあなたたち……」
美紀はオレたちを麻痺させるために撃ったようだったが、本来の目的を成していない。美紀本人も試行錯誤を繰り返しているようで、なにもしないでこちらをただ見つめている。
「ソラ!!」
視界の端からナイフが飛ばされた。それは速く、まっすぐ美紀へ向かう。美紀はナイフにすぐ反応して、すぐにあの大きな手が盾になる。 ナイフの飛ばされたほうからシングが走ってやって来た。そのすぐ後ろにはミルミ、そして光也が続いている。
「ミルミはミントの怪我を見てやってくれ」
「わかりました」
「ソラ、大丈夫か」
シングはミルミに指示を飛ばすと、オレに駆け寄って左腕を一度みた。
「大丈夫だ。すぐにおさまる」
「これ……、何なの……」
シングは左腕を撫でてくれたが、左腕の激痛はおさまる様子を見せない。気持ちだけは貰っておこう。しかし痛みで声がいつもなように出ない。絞り出したような声が醜い。
「呪いの発作だ。呪いが徐々に進行していっているということになる」
シングの歯を食い縛る様子が見てとれる。
光也は美紀の利き手を掴んで「目的が違う」と怒鳴った。明が不安な視線を向けるなか、光也は明らかに怒りを含んだ声で続ける。
「ツバサと会うのが俺たちの目的だ! それなのに、こんなことをしたら警戒されて会えなくなるだろうが!」
「あんなビルに引きこもるようになったツバサを無理矢理でも引っ張り出すにはこの荒らさも必要よ。実際、今まで私たちが接触しようとしても何の変化もないのよ?」
「だとしても、手をあげるにはまだ早い! ツバサの価値観だって、世界のように変わってしまってるかもしれない」
「その言葉をそのまま返すわ。いつまでも私たちの知るツバサではないのよ? もう、忘れてしまってるかもしれないじゃない」
美紀と光也の言い争いは続く。 その間にオレの激痛は少し収まったようでホッとした。いまだに痛いことにはかわりないが、それでも肉を剥かれるような痛みよりはだいぶ楽になったというものだ。
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