ダーツ



しかしオレたちがシングたちの所へ行こうとした瞬間、その場は静まり返った。何か起きたのだろうか。ミントが不安そうにしている。明も音が途絶えた方をきにしている。
何の音も聞こえない。



「あの、私ちょっと様子を見て来……」



ミントの声は途絶えた。彼女は目を丸くしている。そしてオレに手を伸ばした。



「危ない……!」



言われた瞬間に気付く。
後ろに何かがいる――。
オレが振り向くと同時に、横を高速でダーツが通った。いや、ダーツのようなものだったが、先は針のように鋭利なものだ。武器が投擲された。その結論に至るまでが遅かった。
ミントの手にダーツが刺さった。そして続けざまに三回。ミントの手は串刺しになって血塗れになってしまった。



「もっと串刺しにしなければ計算の邪魔にはならないかしら?」



そんな声が背後からする。振り返ることを中断していたオレは再び振り向いた。そこには光也とそっくりな髪型をした少女が立っていた。ここにいる誰よりも歳上なんだろう。大人びた雰囲気と言動で制服のスカートを靡かせる。少女の背後には地面から大きな手のみが伸び、その手の指がさらに腕となって、合計五本の腕があった。その腕からダーツが放たれたようで、四本の腕はユラユラと空の手を揺らし、一本の腕はダーツを持ってミントに狙いを定めたままだ。



「馬鹿と天才は紙一重というけれど、そうなのかもしれないわね。まあ、明を天才というほど褒めるつもりはないんだけれど……」

「み、美紀……」



明は少女を美紀と呼んだ。美紀は痛がるミントを見て、大きな手を撫でる。



「ミント、手……」

「すみません。私……役に立てません」

「いや、それより応急処置を」



オレがミントに近付こうとすれば、その手からダーツが放たれた。ミントの手が、また血を吹く。ズズズ、と腕からダーツがまた現れた。近付くな、ということだろうか。



「美紀!」

「明と光也のみが条件に含まれる取引でしょう?」

「……そう、だけど……。こんなことしたら本当にツバサの組織と敵対しちゃう」

「もう敵対してるようなものよ。今更遅いわよ」

「……これ以上、溝を深くしたくない」

「ツバサばかりに頼りすぎよ。自分の足で歩かなきゃいけないのよ」



明は歯を食いしばった。
美紀を撃とうにも、あの大きな手の存在が邪魔だ。どうしたらこの状況を打破できるものか……。ミントは自分で応急処置をはじめた様だが、ダーツを抜くだけでも苦労している。手のひらに突き刺さり、貫通してしまったものもあれば、途中で止まったもの、肉を抉ったものもある。指の肉をが欠け、血は止めどなく流れる。血で手は染まりきり、地面に血が吸われて行った。