交渉成立



「悪い話じゃないんじゃないかな。もう私と光也はここに来ない。私と光也という敵をしのげるんだから」



明は敵意が無いことを示すために武器から手を離し、操っていた銀色の塊を地面に落とした。落ちた銀色の塊は水溜まりのようなかたちになっている。



「わかりました」



ミントが返事した。諜報部のツバサに対して暗殺部のオレが口を出せる会話ではないのだが、それでもついミントに確認をとってしまう。



「ミント、いいの? そんな交渉」

「利害は一致します。それに仕事の達成もできますし、問題はありませんよ! 上司に報告することが増えただけです。したっぱの私が決めてしまったので始末書を書かなければいけないかもしれませんね……」

「ミントがいいならオレはかまわないけど」



苦笑してみせるミントを見下ろして、オレは肩をすくめた。それ以上は口を出すことをやめる。
その様子を見ていた明はホッとため息をついた。



「よ、よかった……。これでツバサに会えるかも」



胸を撫で下ろした明は武器をテレポートさせるように消して、銀色の塊に手をかざした。水溜まりのようになっていたそれは中心に集まり、球体となった。明はそれを自分の手のひらに転がしてポケットにしまう。



「ねえ明。それ、何? 銀?」

「銀じゃないよ、ソラくん。これは鉄! 私は鉄を操ることができるんだよ」

「て、鉄? 念動力とかじゃなくて?」

「あはは。私が操れるのは鉄だけだよ」



よくもまあ、陽気に手の内を話してくれる。明はバカなのだろうか。いや、バカだ。バカなんだろう。ミントをふと見れば、彼女は始末書に何と書こうか考えていた。おーい、諜報部さん。いま敵から異能に関する情報が流れましたよー。
試しにもう少し情報を引っ張り出して見るか。



「明と光也はツバサに会いたいの? 会って何の話をするの?」

「ツバサに会いたいのは私と光也だけじゃないよ。んーと、他に瑞希とゆうりと美紀の三人も」

「三人? 明たちと合わせて五人だけがツバサに会いたいの?」

「うん、五人だよ。五人しかいないもん」



うわお。



「明、よくバカって言われない?」

「え!? なんで分かったの?!」



うわ、バカだ。



「シングたちはまだ戦ってるだろうからそろそろ止めさせにいった方がいいかな……」

「そうだね」



右手の方向で土埃が舞ったのがみえる。
交渉が成立したのだからこれ以上戦う必要はないはずだ。