明たちの目的



多重能力者がなぜ存在しているのか。
多重能力者とはこの世界において、幻想のようなものだ。後藤さんたちといたあちらの世界でいう魔法のようなもの。人の空想の産物であるはずだった。それなのに……、それなのに……。

しかしそんな考察は一瞬で吹き飛ぶ。いまは多重能力者の存在を受け止めて、明をどうにかしないと。
ミントのような普通型能力者のように直接戦闘に介入できる異能でないのが悔しいところだな。



「引いて!」



明の声と共に一閃。避けることはできたものの、あの銀色の塊がオレを攻撃する。オレを銀色の塊が攻撃している隙に、ミントが空間転移能力で持ってきたコンクリートが明の頭上から落下する。明は攻撃にまわしていた銀色の塊で自分の身を守った。銃口を明に合わせる。銀色の塊で出来た壁が解かれ、明の姿が見えた瞬間にオレは連射した。
しかし、それでも明を仕留められない。



「私たちはツバサに会いたいだけなの……!」

「え?」



明の声にミントが反応した。敵の言葉に耳を貸さない主義のオレでも、その言葉には攻撃をやめてしまった。いや、まあ、本当は全弾撃ち込んだからリロードしたいだけなんだけどね。

しかし、明の言葉に少なからず興味を持ったのは本当だ。リロードしながら、明の声に意識を向けた。



「私たちは、あなたたちへの攻撃意識はないよ。ツバサと、話がしたいの」

「不可能です。ボスと面談が目的なんですか? ボスに、見知らぬ人物を合わせるなんてできません。ふざけないでください」

「……わかってる。だから――」



ミントの言い分はハッキリとしていたし、現実を突き付けるには十分な口調だった。声は弱々しくなっているのに、明の強い眼差しに変化はない。



「私たちは確かに怪しい行動をした。でも」

「我が儘はやめてください。何をいっているんですか!」

「……」



諜報部のトップに会いたいなどとおこがましいことを言う明に、ツバサの部下であるミントは痺れを切らして怒鳴った。



「当然のようにボスに会いたいと、よく言えますね!」



ミントのこの言葉が、明の表情を悲痛なものに変えた。なにか違和感のある表情だ。ミントの言葉がそのまま明を傷付けたのではなく、その言葉の裏にある意味に、明はその表情をしたように思えた。



「そ、そう、だよね……。この間のツバサと私たちでは、立場が違う。敵と思われても仕方のないことしてるし、……ね」



彼女はなにを言ってるんだ? なんか意味深なことを呟いているのだが、それはたしかに独り言で、声がはっきりしない。音量も聴こえにくい。



「交渉」



悲痛な表情をしたときにうつむいていた明の顔がこちらに向いた。芯のある声音だ。



「私たちには伝えられない。だから伝えて。私たちの存在を、ツバサに」

「……代わりに、何をしてくれるの?」

「私と光也はここを引く。私たち二人は二度とこちらに来ない」