説明




「彼らは前触れもなく唐突に現れて、そしていなくなります。どこからか、現れて。空間転移、空間歪曲など、魔術の空属性のように。そして、その異能を駆使して、一度我々に接触しようとしてきました。ピンポイントに、ボスであるツバサさんにです。いえ……、もしかしたらリャク様かもしれません。珍しく仕事で二人が一緒に移動したときがあったんです。ボスだって外に出ますからね。そのとき、車がパンクしたんですよ」

「……パンク?」

「はい、そうなんです! パンク! 不自然にポッカリとタイヤに穴が開きました。そして近くにはこちらの様子を伺う彼らが。慌ててボス補佐が彼らを見つけて問いただそうとしたんですが、逃げられちゃって」

「ただパンクしただけでしょ? 別に肩をもつつもりはないけど、決定的な理由とは言えないんじゃない?」

「甘いですねソラくん!」

「はあ」

「タイヤの半分が忽然と消失したパンクですよ。ただのパンクとは言えません。それに逃げたというのはなにか悪意の自覚があったことが予測されます。悪意が無いのなら逃げる必要はないですよー」

「……まあ、たしかに」



確かにそうだろうな。
ていうかタイヤの半分を消失しただなんて、それはパンクの域を越えているのではないだろうか。



「あのとき、ツバサさんの様子がおかしかったというのは聞いていますけど、彼はなにも喋らないんですよねー。まあ、超長寿のツバサさんの考えていることなんて短命の私たちにはわかりませんけどね!」



「そんなことより!」と、ミントは彼らがこちら側に敵意があると説明して、待ち伏せの話題に切り替えた。
オレと一緒に、ミントに渡されたパンクしたタイヤの写真が印刷された資料をみていたミルミは姿勢を戻して待ち伏せの話題に加わる。



「移動は私の空間転移がありますので問題ないですよ!」

「待ち伏せか……。ソラの良眼能力者で、彼らの所在と位置を確かめるとして、奇襲は俺たちが担おう」

「マスターに賛成です」



シングのことをミルミは「マスター」と呼んで同意した。オレもシングに賛成する。まあ、意見できるような知識を持ち合わせていないからな。ミントも頷いた。



「きっと戦闘になるだろう。俺はミルミといるからソラとミントは一緒に行動してほしい。一人で動かないように、慎重に。なにも情報がないから警戒してほしい」

「了解」

「わっかりましたー!」

「ソラ。私とマスターの異能について説明します」



ミントの元気ある返事ののち、ミルミはオレを見上げて言った。
ミントの場合は異能をガンガン使っているが、オレはシングとミルミの異能を知らない。



「マスターは瞬間移動能力です。普通の人の目に見えないスピードで移動する能力です。私は治癒能力です。ツバサのように瞬時に治すことは不可能ですが、軽い怪我ならそれに近いことはできますよ。では明日はよろしくお願いしますね」



ミルミは終始無表情を貫いた。シングは気にしないでくれ、と言って笑う。
ああ、なんだっけ。ミルミが無表情の理由。シングとミルミがいつも一緒にいる理由。喉につっかかる記憶が気になって、オレは咳払いをしてみた。