説明



「うわわわわ、座標間違えちゃいましたっ!」



部屋に一度は聞いたことのある空間を揺らす重低音とともに愉快な少女の声がした。シングは苦笑いをしてそちらを見る。そこにはツバサを迎えに来ていた猫耳のついたフードを被った少女。明るい金髪を揺らして、黄緑の大きな目をぱちくりさせていた。



「ごめんなさい。予定では廊下に出るつもりだったんですけど、急いでいてちょっと計算を間違えましたー」

「まあ、壁に入らなかっただけ良かったじゃないか」

「でーすよねっ!」



はじめは申し訳なさそうにしていたのに、シングにフォローされたとたん、少女は機嫌を良くした。
彼女はふと、オレに気付くと満面の笑みをこちらに向けてきた。



「初めまして、ですけどお久しぶりですソラくん! 私はミントっていいます。よろしくお願います!」

「ああ、うん。よろしく」



握手を求められたので応じてみれば、ミントはブンブンと上下に振った。肩が痛い。この光景をシングは笑顔で、ミルミは無表情で見守っていた。救いはないんですか。



「じゃあ明日のお仕事について話し合いましょうか!」



ミントのほうから話題を切り替え、持っていた紙の束を机に広げた。
隠し撮りをしたような、ピントの合わない写真や、それを解析した写真、ずらりと並んだ文字が印刷された紙だった。



「今回の資料です。相手方のガードが固くて情報がいつもより不充分で申し訳ないです。今回の標的は二人組の男女です。無能者ではないでしょう。でも異能はわかりません」



オレたちはミントが説明する資料がちりばめられた机に集まった。二つの写真がそれぞれ印刷された二枚の紙を指してミントは説明している。
ぼやけてしまっているが、そこには黄土色をした長い髪をサイドテールに縛った少女と茶髪の少年が写っていた。いずれも見たことがない制服を着ており、学生だということはなんとなく掴むことができた。



「彼らが最近、本部の周りをウロウロしているという敵の組織の?」

「あ、はい、そうですそうです! なぜかうちの諜報部でも調べられなくて困ってるんですよねー。今回がはじめて接触することになりますね!」

「ふむ……。わかった。警戒して行こう」

「私たちは待ち伏せして彼らを攻撃することになっています」



待ち伏せ?
オレは挙手をした。発言権を得る。



「待ち伏せってどういうこと? この建物の周りをウロウロしてるくらいしかわからないんでしょ。いくら相手に敵意があったとしても、決定的な証拠がなければ加害者はこっちだ」

「ソラくんの言うこともわかりますー。でも決定的な証拠というか出来事……あるんですよ」



ミントは机に置いた紙を漁って、数枚引っ張り出すとオレに見せた。オレ側にミルミが傾いてきて、彼女も一緒になって見る。



「さきほど彼らの異能はわからないといいましたが、それは異能を特定できていないという意味です」