それぞれ



ルイトに時々アドバイスをもらいながら射撃の練習をしているとジンが「うわあ」とときどき呟いた。それはいったいどういう意味で言っているんだろうか。
オレは深く考えることもないまま射撃をこなすことができた。不思議だ。記憶はないのに、なにをどうしたらいいのか、なんとなくわかるのだ。



「やっぱり体が覚えてるもんだな……」



弾を装填するオレの隣でルイトは、中央ばかりに風穴があいた的を見ていた。オレが装填を完了してまた新しい的を撃つ。人型のそれはすぐに穴だらけになった。



「使い方とかコツはソラの体が覚えてたみたいだな」

「そうだな。それはそうとソラ、時計。もう時間だし今日はここで切り上げよう。四階の会議室だ。4‐2って部屋。俺とジンが案内しようか?」

「大丈夫だよ、ルイト。じゃあオレいくね」



確かに時間はもう九時に近い。てきぱきと片付けてオレは会議室に向かった。
オレが出ていったあと、ジンはルイトの肩を抱き、小さな声で内緒話をするように話しかけた。



「お前、過保護じゃね? そんなにソラが心配か?」

「……心配だ。もう死にかけのソラはみたくない。ソラが異世界を渡るときに、俺たちの目の前で飛び降りをしただろ。ああいうの、もう二度と見たくないんだ……」

「それは分かるけどよ……。俺だって、あの雪国で体験したことやソラのことは辛い。でもソラは死に急いでるわけじゃない。少しはソラを信頼しようぜ」

「信頼してる」

「ソラを信頼してるってことを信じてるだけだろ。ルイト」

「……」

「ソラは大丈夫だ」



ジンは下手くそにルイトの頭を撫でた。髪は乱れ、ルイトのイヤホンがはずれかける。イヤホンをもどし、ふと笑みをこぼしながらルイトはソラの姿を頭に思い浮かべて「そうだな」と呟くように小さな声で言った。


そんなことがあったとは知るわけもなく、オレは目的地に無事到着した。ガチャ、とドアを開けると、シングとミルミがすでに待機していた。そのすぐ近くには四人の少年少女がいて、合わせて四人が雑談をしている。あ、シングとミルミ以外はみんなおなじ上着を着ている。それぞれ加工しているようだが、確かにそれの元は同じだ。紺色の上着。白いラインだけが描かれたシンプルなそれは今、オレが着ている上着とも同じだった。



「ソラっ!!」



奇声に似た声をあげながら高揚して立ち上がる黒髪の女性。腰まである長さの髪がふわりと舞う。そんな彼女の足元にある影は不自然に揺れていた。



「お、来たなーっ」

「じゃあ私たちはもう行くね」

「おい、行くぞ」



金髪のひとつ結びをした俗に言うイケメン君、おだんご頭にしている少女、まつげの長い少年は寄生をあげた黒髪の女性を引き摺って部屋を出ていった。黒髪の女性はオレにくっつきたいようで両手足をじたばたさせていたが、まつげの少年が連れていってしまった。おだんごの少女はオレに手を振って、イケメン君はオレに投げキッスをして部屋から完全に出ていった。オレはそっとドアを閉める。



「やあ、ソラ。久しぶりだな。俺はシング・ザシュルンク。改めてよろしく」

「こんばんは。ミルミ・ベファルンです」



それぞれと握手をするとシングは静かに「さっきの彼らはソラと同じ暗殺部だ」と言った。なんてことだ。個性的であんな賑やかな暗殺部なんて聞いたことがない。