訓練



カチャ、とスプーンを置いてオレは満足に仰け反った。ルイトのベッドを占領して寝転がる。



「ごちそうさまー」

「お粗末様。もう部屋に帰ってゆっくり休め……って言いたいところだけどソラ。明日お前に仕事がある」

「……仕事……?」



食器を流し台に持っていき、洗いながらルイトは話をする。

仕事とはなんだろうか。暗殺?
ほとんど記憶がない状態のオレをいきなり実戦に投下するってこと?



「暗殺とかじゃなくて邪魔者を追い払うだけの簡単な仕事だ。ソラには一応、シングとミルミが着いてくる。打ち合わせは今夜の9時にあるってよ。確か、場所は4階の会議室だ」

「急すぎない?」

「……あー、ソラからしてみるとそうだろうな。二週間前から決まってたんだけどな。ソラを呼び戻したらすぐに対立中の組織の手先を追っ払うって仕事。でもまあ、暗部にいたら急なことばっかで予定なんて頼りないぞ」

「へえー」



時計を見るとまだ7時だった。
両手を額の上で組んで、9時までの2時間もの間なにをしていようか悩んだ。この建物の地理を頭に叩き込むのもいいけど……、記憶のほうもどうにかしたい。
組んでいた手を腰の方に下ろすと、指に拳銃の当たった感触がした。



「あー……」

「? どうかしたか、ソラ」

「ちょっと射撃の練習してくる」



上半身を起こして立ち上がり、ルイトの部屋を出ていこうとすると、ルイトはあわただしく食器を片付けはじめた。



「なに」

「一回説明しただけだし、場所……分かるか?」

「わかるよ。9階でしょ?」

「そう……だけどっ」

「ごはんありがとう。じゃあまたね、ルイト」

「あ!!」



オレを呼び止めようとするルイトの声を無視してオレは部屋を出ていき、9階を目指した。3階から階段を昇っても案外苦にならなかった。そうして9階についたオレは射撃場に行き、人型の板に弾丸を撃ち込むことにした。他には誰もいなく、射撃場はオレ一人の貸し切り状態だった。5分間だけ。

なんとルイトが現れたのだ。どうやらオレが心配で追いかけてきたらしい。なんて過保護なお母さんなんだ。
と、思っていたら後ろにさらに人が追加されていた。写真でみた銀髪の目付きの悪い人だ。




「よお、ソラ! おかえり」

「ただいま」



誰、と目線でルイトに訴えてみるとルイトに伝わり、彼を紹介してくれた。



「こいつはジン。ソラの向かいの部屋に住んでる暴力馬鹿だ。その上不器用で短気だな。まあ悪いやつじゃない。かなり不器用なだけだ。色々とな……」

「るせぇよルイト。……ま、そういやあソラは記憶がないんだっけか」

「そうだね。よろしく、ジン」



やはり初対面特有の緊張感がない。頭で忘れていても感覚でジンのことを覚えているということだろうか。



「ソラ、射撃なら俺がアドバイスしようか。普段は弓矢使ってるけど、これでも拳銃だって扱える」



そう言ってルイトはオレと同じく訓練用に用意された拳銃を手に取って構えた。