呪い
「じゃあ次はソラの部屋な」といってルイトがオレを案内したのは三階の奥。一番奥の部屋だ。ルイトは鍵を開けて、その鍵をオレに手渡した。中に入ると、無造作に置かれた家具があちこちに見えた。家具はどれも埃をかぶっていなくて清潔だったが、最低限のものしかない。
「ここがソラの部屋。掃除は俺がやってたから綺麗だとは思うぞ」
ルイトは迷いなくオレが使うだろうベッドに座ってオレの様子を眺めていた。オレはそんななか、小さな冷蔵庫の中やタンスのなか、風呂場などを見て回った。クローゼットのなかは男ものの服しかなく、本当に男装をしていたのかと納得させられてしまった。 奥には狭い座敷のスペースがあり、そこには刀が立て掛けられていた。二本だ。一本の刀身は銀色で手入れがされているが、もう一本の刀身は真っ黒だった。汚れたりしているのではなくもともと真っ黒なのだろう。
ドクンと心臓が鳴って、汗が流れる。心なしか呼吸も少し荒い。オレは真っ黒な刀身を鞘に戻してもとの場所に戻した。
「ルイト……」
「おかえり――って、どうかしたか? 汗出てるけど」
「平気。大丈夫」
ルイトがタンスからタオルを持ってきてオレの手元に渡す。オレはそれで顔を拭きながら記憶を探っていた。
昔、オレはなにをしたんだ?
「ルイトとオレの関係って、親友なの?」
「まあ、一応。ソラを迎えに行ったときにいたシングとミルミもそうだし、紙袋を渡しに来てくれた眼帯のレイカもそうだ。まだ会ってないけど向かいの部屋のジンとか……」
「なんだか……、ごめん」
「別に、ソラのせいじゃないだろ。気にすんなって」
「でも呪いが関わってるんでしょ?」
「……ソラ……」
「呪いのこと教えて」
気がついたら左腕に刻印があった。 びっしりと謎の幾何学文字が連なっていて、時折、その刻印たちが酷く痺れる。その真っ黒な刻印で埋められたオレの左腕は肌色の面積が圧倒的に少ないほどだった。その異様で異色で気味が悪い左腕は、絶対に呪いだ。それがオレの寿命をくっているのだ。
「ああ……、ソラには知る権利がある。その呪いはソラが10歳のときに起こした大きな事件が原因。呪いをかけたのは魔女だ。クラウンって名前の銀髪の女性」
「魔女が、オレに、この呪いを?」
「そうだ。記憶を失う前のソラは魔女を追っていた。高位魔術師の魔女に深傷を負わせることは何度かあったが、どれも殺すまでには至っていない。その逆もそうだ」
「魔女……。ああ、魔女か……。なるほど」
「本来、ソラは12歳で死ぬはずの呪いだが、リャク様たちがなんとか延命させている」
いつの間にかうつ向いていたオレの顔が勢いよく上がって、ルイトを瞳に映した。
「オレ……死んで……!?」
「ソラは死んでない!! ……っ生きてる」
ルイトが必死に死んでいないと言った。ルイトの指が肩に食い込んでしまうほど彼は必死で、その様子にオレが驚く。 ルイトはばつが悪そうに顔を背けると咳払いをした。
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