呪い



「急に拳銃を使ってキツいだろ。大丈夫か?」

「平気。前のオレはこれを使ってたんでしょ?」

「そうだけど……」

「初めてな気がしないんだよね、全部。なんか、こう、上手く言えないんだけど、ああ、オレの居場所はここなんだって感じ。記憶喪失ってこんなんなのかな?」

「いや、お前の場合は記憶喪失じゃないだろ。かなり優秀な封術師が封術でソラの記憶を封印してるんだ。記憶喪失とは違う……」



拳銃を眺めていると、ルイトは同じようにオレのもつ拳銃を眺める。



「今から建物の案内と一緒に組織のことについて話す。歩きながら話そうと思うんだけど、立てるか?」

「たぶん立てる」



パッとルイトは立ち上がった。オレもベッドから出て立つ。あ、制服のまま寝てたんだ。後藤さんたち心配するだろうなあ。
制服姿のオレをルイトは見ている。おもにスカートを。なんだろう。スケベなの? たしかに生足だけどこれは規則であって……。



「やっべ……」



ルイトは大慌てで誰かに電話しはじめた。え、だからなんなの? なにか悪いことでもしました? なんでそんな反応をするの……。
電話が終わり、ルイトはどこか緊張した表情になって唾をのんだ。



「あのさ、お前……、その、記憶を封印される前……」

「な、なに」

「……男装してたんだよ」

「は?」



なんか、予想の斜め上を行ったな……いまの発言。
それにしても男装とは一体どうしてそうなったんだろう。よっぽどの理由じゃないかな。つまり正体を隠してるってことでしょ。それとも、オレの趣味? いままで気が付かなかったけど、オレって男装が趣味だったり……?



「左腕にビッシリ刻印があるだろ、ソラ」

「ッ……。見たわけ?」

「前から知ってた。昨日今日見たわけじゃない」

「……」

「その刻印に関係することだ。それは呪いなんだ。寿命を縮める強力な呪い。ソラは命を狙われている。だから見付からないように男装をしてる。暗殺のこともあってな」

「……」

「性別の差はどんな変装よりも大きい。下手に変装するよりも男装をしたほうが確実だ。俺も初対面のときは男だと思ってたしな」

「このまま部屋を出るとまずいってこと?」

「そうだ。いくら同じ組織といえどソラの正体を知ってる奴は少ない。こう言うのもなんだけど、だから、その、男装……」

「……変な性癖」

「違ぇよ! そんな性癖なんて持ってねえから!」

「まあいいけどさ。オレが『オレ』って一人称なのもそれが由来なんでしょ。生まれた環境が男ばっかだったわけじゃないだろうし」

「え?」

「だって姉ちゃんが……。なんかおかしいこと言った?」



なんでルイトは目を丸くしているのだろうか。オレまで目を丸くする。ルイトが口を開こうとした時、ノックの音が部屋に響いて「失礼します」と少女の声がした。ドアを恐る恐る開けたのは眼帯に白衣を着た特徴的な少女だった。