異能の証明



安全装置のはずし方を知っていた。銃口を人に向けるのも抵抗が無い。引き金に触れてから違和感に気がついた。銃弾は本当に入っているのだろうか。確認してみたら銃弾なんて一つも無い。少しツバサが笑った。「外さないでね」と一つの銃弾を手渡しされる。遊ばれてるのかな、オレ。ルイトはため息をついてるし。

改めてツバサに銃口を向けた。頭や心臓はやめろと言っていたから腹でいいかな。さっきと大して重さの変わらない銃を両手で持ち、オレは遠慮なく引き金を引いた。
部屋中に轟音が響き渡った。ルイトがオレを凝視している。ルイトの方を見てはいないがなんとなく感じ取った。
ツバサの腹部から血が出ている。真っ白なこの部屋を赤く染めている。ベッドや床に赤を塗りたくり、鉄のにおいを充満させていた。痛そうだな、とツバサの表情を伺えば、彼の口は笑っていた。腹を抑えていた真っ赤な手を顔の横まであげて、しっかりとオレを見る。ゾクリと寒気がした。



「血、止まったよ」

「っ……?」



撃つ前と同じ声音をしてツバサは腹を見せた。まだ乾いていない血を服の裾で遠慮なくぬぐった。
オレは異能者というものを目の当たりにした。
傷口など、どこにもない。銃弾がその腹に埋まったはずなのに。こんなにも血が流れているのに。あり得ない……。いや、あり得ないことを引き起こすのが異能者というものだろうか……。



「この組織は四人のボスによって纏められている。俺はそのうちの一人。諜報部のボスをしている不老不死」

「不死……?」

「種類にするならば能力者のなかでも秘密型能力者になるかな。俺の身に関わる内外の攻撃はすぐに無効化できる能力だとおもってくれればいいよ。異能者の証明にはなったかな?」



そりゃ、信じるしかない。血は出ていたのに跡形もなく消えるなんて普通ではあり得ない。それは異能の力だとしか説明がつかない。ルイトにもそれはあって、オレにも――。もしかしたらオレの視力が異常に良いのはそれが異能だからなのかもしれない。目が「異常に」良いだとすれば、人間のもともと持つ能力が異常特化してることになるから、オレは特化型能力者になる……?

突如、部屋の中にはブオンという低音が響いた。空間を揺らすような音に真っ先に反応したのはルイトで、目線だけすぐ音のする方へ向いた。ツバサは嫌そうな顔をする。




「ツバサさーん! 補佐の二人が怒ってますよ! 仕事してくださ、うわあっ、血!? なんで!?」



音のする所から元気な女の子の声がして、そこをみるとパーカーを着た金髪の女の子がいた。パーカーについているフードを被り、そこから金の髪が漏れている。フードは猫耳のようなデザインで、明るい表情をする彼女に似合っていた。



「仕事するから血のことは内緒ね」

「え? なにしたんですか?」

「それは秘密。着替えるから俺の部屋まで送ってよ」

「しょうがないですねー」



突然現れた少女は口をムッとさせた。ツバサは立ち上がって少女の手を持つとオレとルイトに手を振る。



「ごめん、用事ができた。あとはよろしくねルイト」

「ちょ、ツバサ!?」

「じゃあねー」



やはり笑顔で手を振っている。少女とツバサは来たときと同じように低音を鳴らして消えた。