正体



「まずこの世界。ここはソラが生まれ育った世界だよ。ここには異能者と異能をもたない無能者が存在する。無能者のほうが数は多いかな」

「まだ信じがたいけどそうらしいね」

「ああ、ソラを保護したこの組織のことも触れておかないとね。この組織に正式名称はないよ。いろんな呼び方がある。『saint hurs』とか『生者の沈黙』とか。まあなんでもいいよ。この組織は裏社会に生きる人間ばかりで構成されてるのは頭に置いておいてね」

「……裏?」

「記憶を失う前のソラは暗殺を仕事にしてたってことだよ」

「人殺し!?」

「あははは。ソラが驚くなんて新鮮だな。でも事実だよ。拳銃を、時には刀を使って人をバッサバッサ殺してたよ」

「……犯罪者じゃ……」

「でもそれがソラ。そしてこんなきたない裏社会にしか生きられないのも事実。受け止めてもらわないといますぐソラを拘束しなくちゃならない」

「脅し?」

「現実だよ」

「……」



オレはツバサを睨んだが、彼はこの視線を気にしていない。
しかし唐突に自分が暗殺者で人殺しだと言われたってピンとこないし受け入れられない。いや、違う。きっと思い出せないだけだ。オレが人殺しなわけがないと自分で自分を否定できないのだ。なんて嫌な真実なのだろう。



「ねえ、いまだに異能者ってのが信じられないんだけど」

「じゃあ証明しようか」



やはり笑顔で、ツバサはオレが寝ているベッドの下をゴソゴソと漁り、そして一丁の黒光りするそれを手に取る。それを見て冷静だったのは意外にもオレで、驚いたのはルイトだった。



「拳銃!? ツバサ、それで何をするつもりだよ!」

「一度撃ったところで死なないよ」

「だからって……!」



ルイトは怒る。しかしツバサはひらひらと手でルイトの怒りを避けるとオレに拳銃を渡した。予想より重い拳銃がずっしりと両手に乗る。隅々まで指で触ってみた。玩具ではない。



「俺は怪我の治癒ができる能力者だよ。あ、ちなみに異能者の種類については――」

「なんでだかうまく思い出せないけど知ってる。能力者と魔術師と召喚師と封術師の四種類でしょ?」

「はい正解。よく覚えてたね。基本も忘れてるかと思ったよ」

「馬鹿にしてんの?」

「あはは、ごめんごめん」



睨んでやってもツバサには一切きかなかった。
それにしてもこの拳銃でオレになにをしろというのだ。いくら治癒だからって自分を撃てとは言わないだろうが……。



「じゃあ証明するからそれで俺を撃って」

「は?」

「俺が撃たれれば異能を証明できるし、ソラには人を撃つ感覚を覚えてもらわないと困るからね。はい一石二鳥。心臓と頭以外をよろしく」