過去の親友?



初めて会った気はしなかった。
初対面の人には少なからず緊張をするというのに、ルイトやツバサにはそれが全くといって良いほどなかった。

オレには記憶がない。後藤さんや雄平たちと過ごした日常以前の記憶がない。両親の顔もどこで生まれたのかも、故郷の風景も。高校にはいつの間にか転校していた。姉から両親の死を教えてもらった。記憶はないが、経緯は姉の口から聞いていた。記憶がないのは両親が死んでしまった車の事故にオレも乗っていたからだとか。
失っている記憶は、もしかしたら、ルイトたちとの記憶なのではないだろうか。いやいや、まさかそんなこと……。でもそう考えたらなにもかも辻褄が合う。彼らがオレの名前を知っているのも、お帰りと言ったことも、オレが初めて会った気がしないことも、「異能者」という単語に心当たりがあるということも。



「険しい顔をしてるよ」



ツバサにそんなことを言われて我に帰る。険しい顔をしていただろうか。考え事をしていただけなのに。終始笑顔を貼り付けたツバサとは違ってルイトは不安の色を顔に浮かべている。



「大丈夫か? ソラ」

「なんでもない。考え事を……、してただけだから」

「それならいいけど、無理すんなよ? どんなに些細なことでも困ったことがあったら力になるから」

「なんでオレに優しいの?」



オレの考えていることが当たりか外れか。もし当たりだとするのなら、この異常に視力の良い目も説明がつく。異能者だから、異世界の住人だから。でもそれがほんとうだったなら後藤さんや雄平たちとは相いれない存在であり、もう二度と会えないことにもなる。



「親友だから。もう二度と失いたくないから……」



即答だった。ルイトは少し悲しそうな声音をしていた。なんだか申し訳なくなるのはなぜだろう。

ルイトのそんな声を聞きたかったわけじゃない。



「はいはい、二人とも。話の終わりはまだだよ。悪いけどそれは後にしてね」



パンパンと両手を叩いてツバサは本題から外れてしまったオレたちを軌道修正する。



「ソラの記憶がどこまで封じられてるのか気になるからいくつか質問していいかな?」

「どうぞ」

「異能者って知ってる? 正式名称は異変的能力者って言うんだけど」

「なんとなく……」

「ここが異世界っていうことも?」

「ここが、というより後藤さんや雄平たちがいた世界が異世界なんでしょ」

「ウノっていう男は知ってる?」

「ッ!?」

「……知ってるね。はっきりと思い出せてはいない様子だけど、それは時間の問題かな」

「え、あ……」



なんでオレは「ウノ」という人物の名前に反応を示したのだろうか。「ウノ」とは誰?
顔が真っ青になっていく気がした。「ウノ」を知らない自分に、自分が恐怖しているのだ。



「ソラ、改めて君が置かれている状況とこの組織について説明しようか」