見知らぬ部屋



ふと、目を覚ました。
なにかきっかけがあったのか心当たりはないが、とにかくまぶたをふと持ち上げた。寝起きの気だるい感覚がオレについ先程まで眠っていたのだと告げる。

目を冷ましたオレがまず目にしたのはイヤホン野郎だった。意味がわからない。というか顔が近い。



「……なにしてんの」

「うわっ!?」



人が喋ったとたんに驚くとはどういう了見だ。イヤホン野郎が体を引っ込ませてオレが寝ているベッドの脇に置いてあった椅子に大人しく腰を落ち着かせた。比例してオレはベッドから上半身を起こす。あ、薬の臭いがしてる。



「あ、起きたんだ。おはよう、ソラ」

「……え?」

「さっきまでウノとナイトもいたんだけどね。体調はどう?」



イヤホン野郎の反対側にはトンネルの外で遭遇した金髪碧眼がいる。ちょっと待って、ここどこ? なんでベッドにオレは寝てるの?
先程まで本を読んでいたのか、オレに話し掛けながら金髪碧眼は本に栞を挟む。本にはブックカバーがされていて何の本を読んでいるのかわからない。ちらりと見えた本のなかみは少なくとも日本語ではない。はっきりと見えたから断言できる。
いや、そうじゃなくて、ここどこ?



「ソラ、頭が痛いとかないか?」

「大丈夫……だけど、ここどこ? 誘拐?」

「違うよ」



オレの返事にイヤホン野郎は安堵した様子をみせる。しかしそんな場合ではない。オレにとって未知の場所にいるわけだから心が落ち着くはずもない。強気で聞いているものの、本音は不安で仕方がない。



「どういうこと? オレ、ここ知らない。君たちが連れてきたんじゃないの?」

「確かに第三者からみたら誘拐かも知れないけれど、ソラにとっても俺達にとってもこれは誘拐じゃない。……お帰り、ソラ」

「……え?」

「ソラの記憶は封術で封印してあるから信じがたい話だとは思うけど……」

「ソラ、異能者ってわかるか? 異世界を信じるか?」

「……っ」



言葉に詰まる。夢の中で、その話を誰かにされたような気がするのだ。
信じるか信じないかではなく、それは事実であるのだからイヤホン野郎が聞くのは変に思えた。異能者のことはなんとなく覚えてる。異世界は在る。
そんな根拠ないことを考えてしまった。



「……君、名前」

「あ、ああ、そういえば自己紹介してなかったよな……。ソラにとっては初対面なんだし……。悪いな、忘れてた」



ずき。



「俺はルイト。ルイト・フィリター。よろしく」

「あ、俺も必要かな。俺の名前はツバサ。好きに呼んでいいよ。以後よろしくね」