金髪碧眼の青年



左肩が重い。不良の手のせいか、それとも。
不良の手を右手で上から覆うようにつかんだ。強く。不良が「痛っ!」と言ったのと同時に俺はオレはくるりと向き合うように振り返って彼の腹に膝蹴りをした。衝撃で彼の背中が丸くなる。天井に向けたその背中に今度は肘を打ち付け、そして頭には踵落とし。周りは唐突のことで静まり返った。いまやオレの足元でうずくまる不良の咳のみがトンネルを響かせていた。
オレは周りが茫然している隙に全速力でトンネルの外へ駆けだした。数秒おくれて「あの女!」「おい、大丈夫か!?」「バイク、バイクを使え!」「いきなり殴った!?」再び騒がしさを取り戻した。この主な原因がオレで、この緊迫感と殺伐さえなければいいのに。
というかバイクはまずい。轢かれる! ああ、穏便に済ませればよかった。すぐ手がでてしまう。



「ていうか、バイク……!?」



問題はバイクだ。とにかくトンネルを早く出てすぐ近くの茂みに飛び込まないと。
こんなところで死んでなどいられないのだから!



「ソラ、こっち」



そんな声がトンネルの外から聞こえた。手が視界の横から伸びてオレの腕を荒っぽくつかむと引っ張られて体が傾いた。体に衝撃がかかる。しかし草のクッションがあったおかげでさほど痛くはない。
あ、ここトンネルの外だ。いやいや待て。待って。オレの手を引いたのは誰……!?



「大丈夫?」

「え。……君、だれ……」



金髪碧眼の青年だった。金髪に黒のメッシュを入れていて、どうみても日本人じゃない顔立ちをしている。欧米のほうの顔立ちだ。なんの感情を宿しているのか分らない青と紫の瞳にオレが映し出されている。形のいい口が開こうとしたとき、バイクの音がトンネルの中から響いた。
金髪碧眼の青年はオレの口を押えて木陰に隠れる。

どうして見知らぬ人がオレを助けてくれたのだろう。不良たちから隠れるためにおとなしくはしているが、すぐにでも口を押える手を離していただきたい。イヤホン野郎たちのこともある。彼らとこの青年がグルだった場合……。



「ソラを捕まえた。もう帰還するよ。準備はいいね?」



頭上からそんな声がする。電話でもしているのだろうか。この会話の内容から、イヤホン野郎とシング、ミルミとの仲間である可能性がでてきた。
……逃げないといけない。こんな、不審人物なんかに……。あれ、なんだか眠い……? 頭がおもくて、目を開けていられない。あ、あれ……? なんで……?