「あき」の訪れ




夕陽が教室の外側から内側に侵入を許された放課後。今日一日分の学校という縛りが緩められて、生徒たちは各々校門から出ていく。教室にはどこにでもいそうな少年とポニーテールの少女と本の虫である一本のみつあみを揺らす少女、だて眼鏡を「頭が良さそうだから」とかける馬鹿な少年、そしてオレ――ミソラだけが残っていた。

しかしオレを含めてこの五人のうち、二人は帰る準備をしていた。あ、教室をでようとしている。「また明日」と互いに挨拶をして、残り三人。



「馬鹿だなあ、雄平」



改めて、だて眼鏡の少年――雄平につげる。雄平が目をそらした。



「なんで俺だけ呼び出しなんだよ。ソラだって俺と同じで、四限目サボって食堂行ったじゃんかよ! 女だからか!? あんの、エロ教師め!」

「普段の行いが良いからかな」

「女だと説教無しかよ!」

「大人しく職員室に行きなって」



雄平は唇を尖らせて不満であることを表情にして表していた。四限目をサボって食堂に行ったのは確かにオレと雄平だが、先生に呼び出されたのは雄平だけ。オレが女であることは、……関係ないと言い切れないな。あの教師のことだし。



「まあまあ。雄平がこうやって文句を言うのはソラが男の子っぽいからだよ。ソラと雄平って男友達みたいな関係じゃない? 女の子らしくしてみたらどうかなっ」



本の虫――後藤さんは慌ただしくオレと雄平の間に入って、髪を揺らしながら双方を交互に見ていたが、オレの方でピタリと止まった。



「……後藤さん、それにはオレにメリットがない」

「はい、一人称を今日から『私』に変更しましょう! さん、はい!」

「オレのことはいいからもう帰ろうよ。雄平を職員室に置いてから」

「一人称違うよー!」

「その前にソラは自首しろよ」



『オレ』という一人称を修正させたい後藤さんと自首させたい雄平。二人の意見を背後にまわし、オレは財布と家の鍵しか入っていない軽い鞄を持った。



「お疲れ様でーす」



ドアに手をかけて、教室から出た。二人は教室の中で荷物を持ち、オレを追う準備をしている。が、二人が教室の鍵を閉めて出たときにはオレは廊下の端。この角を曲がればすぐそこには生徒用玄関がある。
自分の靴箱の前に立ち、履き替えて校門を視界に入れた。後ろから「ソラ、待って」と後藤さんの声がしたので足を止めた。しかし足を止めた理由はもうひとつある。校門いる人物だ。最近オレの視力は成長をしている。視力が成長するものなのかどうかはさておき。いや、オレが成長するのだから成長するのだろう。そんなこと聞いたことないけどね。とにかくオレの目は良いのだ。春の視力検査では全部見えたくらいしか測れなかったが。

だから、校門にいる金髪の少年がよく見えた。黒いイヤホンをしているようだ。青と緑の混ざった瞳がこちらを向いた。

全身の血が熱くなった。