捕縛


     
ツバサは俺たちの仲間だった。


オレの問いに、ゆうりは顔を伏せながら答えた。どうにも歯切れが悪い。しかも過去形。「だった」とは、どういう意味か。今は違うのだろうか。


「つーか、ソラ。どうする?」


そう思慮していたオレを見下ろしながら光也が投げやりがちに仲間へ言葉を投げかけた。敵に捕縛されたのに手足を縛るだけにとどめているこの現状に少なからず違和感を覚えているのだろう。そりゃそうだ。せっかく捕まえた敵なのだ。得られる情報が拷問してひっぱり出して当然。黙って光也を睨んでいると、明が「え?」と、至極意味が分らないといった表情で光也を見上げた。


「どうするって、どういうこと?」

「ソラを生かすか殺すかってことだろ。極端に言うと」


ゆうりがさも当然のように言う。オレは顔を背けた。
武器までは遠い。手足が不自由な今では逃げることが難しい。捕まった時から覚悟はしていたが、このまま大人しくしているわけにはいかないだろう。
瑞希の申し訳なさげに目線を泳がせている。明以外の誰もが、その現実を知っていた。


「……え? えっと、それって、え? なんで?」

「なんでって……」

「だって、ソラは強い魔術師をこっちに連れてくるためにここにいるだけなんでしょ? これ以上なにするの?」

「奪えるものは奪った方がいいだろ。この場で奪えるモンといったら情報。聞き出せるモンは痛めつけてでも」

「まさか、拷問? なんでそんなことするの? 止めてよ。だって、痛いじゃん。そんなことしなくても、さっきソラくん答えてくれたじゃん。いまだってソラくん、怪我も負ってるんだよ?」


「明ちゃん……」申し訳なさそうに瑞希は呟く。明の馬鹿みたいな価値観にオレは唖然とした。なんていうか、甘すぎる。敵であるオレからしても開いた口が開かない。

「ソラくんを捕まえたのは強い魔術師のためなんでしょ? それ以上のことはしなくてもいいじゃない。なんでそんなことするの? ソラくんをこれ以上どうするの?」

「い、いや、明、今のはあくまでたとえ話で」

「拷問するなんて、言わないでよ……。……そんなこと……。そんなの、美紀たちと一緒だよ。必要以上に傷つけるのは、やめようよ」

「馬鹿ね」


明の言葉を受け入れる一同のなかに、一つ、声が加わった。
聞き覚えのある声――。


「美紀」


あれは、ミントの腕やオレの背中を串刺しにし、なおかつ組織の医務室に襲撃を仕掛けてきた少女――美紀だ。明たちと同じく高校の制服らしきものを着ているが、ここにいる誰よりも年上であるのは容姿や彼女が纏う雰囲気というやつで察する。高校の制服を着ているのだから18歳だろうか。
光也と同じ髪をさらりとなびかせながら、彼女は冷たい表情と声音で明に言葉を放った。「クズね」と。まったく同感だ。


「敵に優しくできる甘さなんていらないわ。余分よ」

「ちょっと、ソラくんに近づかないで!」


オレに堂々と近寄ってくる美紀との間に明が入り込んだ。身を呈して明がかばう。光也が驚いて明を止めようとし、その手を明が払い除けた。そして怒鳴るように、美紀に決定的な言葉を叩きつける。


「守りたい人を捨てた人に説得力なんてない!」

「明、もう一度言ってみなさい。今は仲間であっても、殺すわよ」