謎の少女
 



………痛い

違う。「痛い」なんていう優しいモノじゃない。
それをはるかにこえるほどの痛覚が僕の左腕と頭にある。……「激痛」…?いや、まだ足りない。

余計な事を考えられるまでに痛い。頭が真っ白、というのをこえていた。

痛い…
痛いよ…

左肩から手首にかけて刻まれた文字や記号が、痛くて…っ。

急に現れた激痛のせいで、油断していた僕は意識を手放した。








『今夜も人を殺したのね、ソラ』

「……、誰?」

『あら、もう忘れたのかしら』



残念、と呟くのは僕の前に立つ少女。
四方八方が黒い闇に包まれていてここがどこなのか分からない。
足がやっと見えるほどだ。

前方に立つ少女は腰まで届くあかい髪の後ろで手を組みながら僕を見た。



『私は"呪い"よ?』

「……へぇー。僕に何の用?用がないなら消えなよ。」



きっと今の僕の目は人を殺すときの目だ。

自称"呪い"は、僕が興味を示さなかったことに、むすっと拗ねて視線を左腕にずらした。



『嫌ね。人殺しの瞳は』

「黙って…」

『ふふふ…
犯罪者に黙れ、なんて言われたくないわ』

「黙れよッ!!」



キーンと僕の声が響いた。自分でも大声を出したことに驚く。



『……覚えてるかしら』



ふっと笑みを浮かべた自称"呪い"はゆっくりと視線で僕の目を突き刺した。
そして笑みがとけた。



『ソラなんて、うまれてこなければ良かったのに』



自称"呪い"が憎んだ目で、恨んだ目で、冷めた目で、憎悪に満ちた目で、卑劣な目で、僕を見た。
僕の目を、突き刺した。

僕の脳裏にフラッシュバックで何度も浮かび上がるのは、好ましくない記憶ばかり。

あの日、あの時、あの瞬間から全てが始まり、そして終わった。――――すべて、自らの手で。
すべて自分の意志で。



「………君は、誰?まさか、」

『ああ、惜しいわ。時間ね。さようなら。また会いましょうソラ。』



自称"呪い"は、わざとらしく会話を切ると闇にとけて消えた。

同時に僕の視界も揺らぎ、白く眩しい光に包まれて何も見えなくなった。











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居心地の悪さにソラは目を覚ました。
肩につかないくらい短い髪を右手でかき、上半身を起こす。

ここでソラは自分が寝ていたことを知った。
辺りは暗い。
体の下にあるのは柔らかい布――――ベッドの感触だ。

ソラはここで、辺りを確認すべく自らの能力を使った。

音もなく、ソラは目を鋭くさせる。
この空間に入り込むわずかな光を、確実にひろう。

すると見えてくるのは、見馴れた自分の部屋。
寮の一角にある、一人用の小さな部屋だ。

ソラの能力は、良眼能力だ。良眼能力は、文字通り眼がいいのだ。
それは視力の面だけではなく洞察力などにも当てはまる。

現在のソラがやっているように、暗闇でもわずかな光をたどり、難なく世界を見ることが出来る。

ルイトも似たような能力だ。
このように人間がもともと備わっている何かが異常に特化した、能力者のことを特化型能力者という。



「……ナイトが運んでくれたのかな」



呟きながらソラは時計をみた。
時刻は午前3時14分。