若かりし春
 



倉庫に隠れて数時間経ち、なかなか見つけられることがない二人にはそろそろ飽きがさしてきた。



「ひーまー」

「同感だー」



委員会の人は誰一人見つけてくれない。それにもうすぐで昼食の時間だ。
大食いである二人には食べないなど、地獄以外のなにものでもない。


―――キーンコーン
―――――カーンコーン……


ソラがビクッと反応した。



「っだぁぁぁぁ!!もう無理ぃぃ!!」

「あ、ちょ…っ!?」



ソラは隠れていた場所から勢いよく飛び出た。そして倉庫から出ていってしまった。
ジンは、はぁとため息をついてソラを追うために立ち上がった。と、同時に廊下からソラの悲鳴。



「あっ…、居た」

「あ゙?」

「ひぅ…っ。ごめんなさいごめんなさい!」



倉庫の扉から聞こえた鈴の様なきれいな声にジンの声が続く。

扉のそばに立っていたのは、胸にかかる薄い茶髪を揺らす少女。右目は眼帯をしていて左目の薄い緑の瞳がジンから床へ目線を変えた。

少女はジンがいじめているレイカだ。もっとも、ジンはいじめているつもりはない。
レイカもいじめられているというほど、深刻なものとして受け入れていない。



「なんでレイカが居るんだよ」

「せっ、先生に探して来てって言われて…。ここにジンがいるかなって…。」

「?」

「体育の片付け時……、そ、ソラと一緒にここを見てしゃべってたから」

「…………。っ!?」



ジンは顔を真っ赤にして口をパクパクさせた。
レイカは見ていた事に怒られる、と思ってぎゅっと目を瞑った。しかしレイカを襲ったのは怒鳴り声でもなんでもなかった。
肩を掴まれ、くるりと反対方向を向かされた。



「……?」



ジンに背中を押されて歩かされる。

ジンは、レイカの事を意識しないように廊下歩く。レイカが何だろうと背中を押すジンを見ようと振り返ろうとした。
しかしそれはジンがレイカの頭を叩いたため、出来なくなりレイカは更に怯えた。



「ジンは不器用というか、下手というか…。」

「ある意味可哀想ですけどね。」



レイカの背中を押して食堂へ向かうジンをかげから見る二人組。
彼らはジンが壊した椅子を片付けたあの二人だ。
黒髪の少年がシング、無表情で話す少女がミルミだ。彼らは友達の人間関係を見てははぁ、と溜め息をついた。

ジンはレイカに恋心を抱いている。しかし何をやっても裏目にでてしまい、結果はいつも残念だ。
レイカは恋心こそ抱いておらず、むしろ怖いと思っている。



「……どうにかなりませんかね…。レイカが可哀想ですよ。」

「ああ、その気持ちは分かるが…。あとでジンを部屋に呼ぶか。」

「ちゃんと聞きそうにもありませんが。あ、レイカを叩いてしまいました。」

「照れてるからってあれはないだろうが……。自分を見てくれて嬉しいなら暴力は止めんか…。ったく…。」

「…マスター、それは本人に言ってください。」



ミルミはそう言ってジンを再びみた。
すると背後からソラの悲鳴が。そしてダダダダッという足音。



「……たっ、助けてシング!!ルイトが怖いっ!!鬼だ!!鬼嫁だ!!」

「俺は女じゃねぇー!!何が鬼嫁だ!!」

「大丈夫☆ルイトのその性格なら立派なお母さんになれるよ☆」

「死ね!!」

「うわわぁっ!」



後ろから突然現れたソラはシングの後ろに隠れ、正面に立つルイトを睨んだ。
ミルミはソラの背中をさすり「どうしたんですか?」と聞く。
するとルイトが矢をソラに向けながら言いはなつ。



「このチビが俺を騙してケーキを買ったんだよ!!」

「違うよ!騙したんじゃなくてルイトの罰ゲームだよ!」

「黙れ甘党チビ!!」

「お前こそだまれ鬼嫁ぇ!!」



シングを挟んで口喧嘩をする二人を静めるためにかかる時間は少しでいいのだが、大抵はルイトが正しい。

そのため、ふてくされて機嫌が悪いソラの機嫌をとるのにシュークリームがいるだろうとシングは考えた。「出費が…」と嘆くシング。ミルミはやはり無表情でシングの元気を出すためにどうすべきかを考えた。