罪人に罰を
 


「……罰?」



険しい顔でシャトナが魔女にどういう意味か問う。魔女はうっすら笑みをうかべて「簡単なことよ」と言った。



「なぜソラはたくさんの人を殺したのに罰がないのかしら。罰がないなんておかしいわ。」

「………」



僕は黙って聞いていた。
魔女は構わず喋り続ける。



「だから私がソラに罰をくだすの。たくさん、たくさん殺したソラに」

「魔女だって僕のお姉ちゃんを殺した」

「殺してなんかないわよ。気絶はさせたけど。あなたは私が殺したと思っていたの?」



くすくす。
喉を鳴らしながら魔女は笑い、「違うわ」とソラへ事実を叩き付ける。



「彼女は自殺したのよ」

「…なん、で…」

「妹が狂って自分のものすべてを奪い去り、生きていく気力がなくなったのね。」

「ぁあ…あああ」



やっぱりお姉ちゃんを殺せていない。でも魔女のせいで死んだわけではない。じゃあ魔女を殺す理由が一つ消えた。

いままで僕は魔女を殺そうと…
いままで僕は、僕は僕は……!!



「私を殺す必要がなくなったのかしら?今回、あなたたちが私の前に現れたのは私を捕まえるため。殺しに来たんじゃないわ。」

「何でお前がその事を」



レオが僕のかわりにいうと魔女は「秘密」と笑顔を浮かべた。



「さて、私を殺す必要がなくなったソラは生きている理由がなくなったに等しいわ。」



すっと魔女は僕に手をつきだす。

ドクンドクンと心臓が速くなった。
呼吸がしにくい。
一人で立っていられなくなり、その場で膝をつく。



「ク、ソ…」

「もうソラは生きている価値がないわ。石碑にあるとおり、この島で死になさい。」

「黙れッ!!」



僕は勢いに任せて魔女との距離を一気に縮め、抜刀した。魔女はそれを魔術でガードしてしまうが、それだけでは僕は止まらない。

斜め下から上へ妖刀を振り、次は横へ。

魔女は後退して避けていくが、僕はそれを追う。



「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」

「ソラ!ストップ、止めなさい!」



後ろからかかるシャトナの声を無視。

魔女の足を妖刀の鞘で薙ぎ払うと魔女はよろめき、砂浜へ倒れた。

僕は魔女の腹に足を乗せて下へ力を加える。刀は魔女の首に当て、優勢になった。

魔女が詠唱できないように、言葉がはっきりしないように腹への力は増していく。



「ゲホッゲホッ」

「殺す理由が無くても僕は殺すことができる。」

「人、殺し…ね」



大抵の魔術師は物理戦に弱い。
詠唱を必要としているせいか、彼らは日頃から遠距離からの攻撃をしている。だから近距離攻撃に対しては弱い。

魔術師の名家で育ってきた僕はその事をよくわかっている。しかも詠唱はほぼ絶対、言葉を使用する。

なぜかはわからないけれども。



「今さら…。」



"呪い"の侵食がはやい。
高台からの封術が僕を"呪い"からまもろうとしている感覚はある。

しかしそれをも侵食していく"呪い"は尋常じゃない。
荒い息をしたまま僕が魔女を見下ろしていると、後ろから誰かの手が伸びてきて僕を抱き締めた。



「……シャトナ…?」

「もう、わかったから」



シャトナの形が不安定な影がペロリと地面からはがれて魔女を砂浜に抑える。レオもシャトナとおなじように僕の近くへ歩いてきた。

シャトナは「任務はこれでおわりよ…」と湿った声で強く僕を抱き締める。

僕は全身の力が抜けてシャトナに抱き締められながらその場に座り込んだ。
妖刀はさくっと砂浜に刺さる。
シャトナも必然的に座り込む。

僕はシャトナの腕をほどいて向き合うと、今度は僕から抱き着いて、泣いた。

緊張の糸が切れたんだ。



「……」



僕は気が付かなかった。
だって泣いてたし。

その時の魔女の悲しい表情に。
その時の魔女の悲しい感情に。

それは束縛されたからじゃない。
それは、捕まったからじゃない。

僕の――――