島の墓
 


海岸を歩いていた僕たちは不意にシャトナに声をかけられた。



「ソラ、あれ何?」

「あれ?あれは島のお墓だよ。」



シャトナが目を向けてきた先にあったのは人工的に磨かれた長細い岩。

質問に答えると指をさしていた手をひっこめ、シャトナは悪いこと聞いたな、という顔をした。



「あれになんか細かいのがほられてるけど」

「死んだ人の名前。まあ、今では島に住んでた人全員が刻まれてるよ。お姉ちゃんも、ラリスも、僕も」



僕は死んだことになっている。
きっと下のほうに『ミソラ・レランス』と刻まれているだろう。



「……?」



あれ、今石碑の近くに人影が…。

なんだろう、と能力を使ってみる。だんだんはっきりしてくる人影。

左腕が反応した。

血が騒ぐっていうのはこういうことをいうのかな。

鼓動が速くなる。

嫌な汗が背中を走った。

喉が乾く。

血が、脈をうった。



もう三年ぶりにみるその人影に僕は釘付けになっていた。……もちろん、悪い意味で。



「魔女…だ」

「え?」

「どこに…、あれか?」



妖刀に手を伸ばそうとして止めた。

だめだ、殺してはいけない。

憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い



「ソラ、大丈夫?」

「あ…」



シャトナが僕の手を繋いでいた。シャトナの呼び掛けに僕ははっとして意識を現実に戻す。

意識を緩めてはいけない。みんなと、約束した。魔女は殺さないって…。

深呼吸をして、石碑の近くに立っている人物をもう一度みる。見間違えるはずがない。確かにあれは魔女だ。



「こっちに来るぞ」



レオが僕たちに聞こえるように呟いた。

僕たちは警戒心を高める。それを無視して魔女はこちらへ歩いてくる。



「左腕は」

「大丈夫だよ。今は。」

「ソラ、ウンディーネ様から聞いたわ。お墓参りに行くつもりだって。」



魔女を見据えながらシャトナは僕に話を振った。僕は繋いでいた手を離して「そうだよ」と肯定した。



「墓なら目の前にあるぞ。花でもあとで摘むか」



レオは冗談を言い、苦笑した。

魔女は歩きながら声を「久しぶりね。今度は島を沈ませに来たの?」と僕に言った。皮肉をいう性格は健在のご様子。



「さんざん人を殺しておいて、よく平気で生きていられるわね。」

「"呪い"を使って僕を殺そうとしている自分は同罪じゃないの?」

「私は罰をくだしているのよ。」



僕たちとは数メートル離れたところに魔女が向き合うようにして立つ。


殺したい。
今すぐにでもこの妖刀で島の住民たちと同じように斬りたい。
一秒でも早く、呪いを―――。


そんなことばかり頭をよぎる。
それを抑えているのは一歩前に立つシャトナとレオだ。

シャトナの影はいつも揺れている。シャトナが右手を挙げても、影は左手を挙げることはよくあること。

シャトナと正反対の能力を持つレオは時々体が透ける。透明人間。プールとか海水浴にいくとビビる。

今、僕の前に立つ二人はいつもの違和感を放っていた。
それが酷く心地がよくて、僕には仲間が居る、と理性を強くさせてくれた。