人選
 


ノーム様がうっすら笑みを溢して「なら大丈夫だな」と言った。



「はいはい、取り合えず人選発表ね。
俺、炎からは空間転移のミントと聖、火属性の魔術師のヒョウ。
クソノームの大地からはそこに居る封術師のナナリー。
シルフの風からもそこに居るエテール。
ウンディーネの水からは良眼能力のソラ、ストッパーとして影操能力のシャトナ、光操能力のレオ。」



ツバサがそれぞれを見ながら言う。そして最後に僕と目が合うと「てか目大丈夫?赤いけど。」と聞いてきた。



「目?」

「そう。ねぇ誰か手鏡持ってないー?」



ツバサに指摘を受けた。

目が赤い、と。

僕は疲れてそんなに充血してるのか、と目を気にした。

ツバサの呼び掛けにナイトがすぐにポケットから手のひらサイズの手鏡を取り出して僕に渡した。

僕はお礼を言って、自分の目を鏡で見て、硬直した。金縛りに合ったような、そんな感覚がする。金縛りではないけれど、例えるならそれ。



「……なにこれ。」



左目が赤い。
充血じゃない。比喩じゃない。
あおかった目の色が、赤に染まっているのだ。

たぶん、"呪い"の侵食が原因だ。左手も、文字やら記号で黒くなっている。爪も、だ。



「ソラが言ってた視界が狭いって、もしかしてその赤い左目が…」

「ウンディーネ、勘がいいな。つまりそういうことだろう。オリジナルの能力が能力だからとくに戦闘や生活に支障はないはずだ。」



さらりと砂浜のように言うノーム様を見て僕はツバサが言っていたモルモットを思い出した。



「決行日は早いが3日後だ。魔女にこちらの動きを気付かれる前に行いたいからな。」



シルフ様がエテールを呼びながらついでに、とでもいうように言った。

エテールが近付くとシルフ様は立ち上がり「帰る」と言って去っていってしまった。



「もう集会終わり?」

「終わり。じゃ、ウンディーネ。ソラとナイトは俺が連れてくから。リカとサクラは自由に使って。」

「わかった。
ソラ、何かあったらすぐに私に知らせるんだぞ!?すぐに!すぐに!」

「ぶぇっ!わ、わかりましたから!!ウンディーネざま…っ。ぐるじ…ッ」

「おぉ、悪かった…」



僕の顔にダイブしていたウンディーネ様はゆっくり離れてしょんぼりしてしまった。

って、え?僕が悪いの?
うわぁ、どうしよう、ナイトにすっごい睨まれてる…。ナイトってば、もともと目付き悪いから余計に怖いよ…。



「う、うう、ウンディーネ様っ!ごめんなさ……」

「ソラ」

「は、はい」

「無理してはいかんぞ」

「えっ…と…?」

「シャトナとレオもいるから大丈夫だとは思うが」

「ウンディーネ様!!」



ウンディーネ様をさえぎった。
失礼だとは思うけど、それでも言いたい事がある。決心したことを、言葉にして、声にして伝える。
一旦深呼吸。自分を落ち着かせ、そして緊迫感を保った声を発する。



「僕、お墓参りしようと思うんです。」



部屋の音が無くなった。
沈黙を破るのはいつものごとく、ツバサだった。



「いってらっしゃい」



それだけ。
理由も、意味も聞かなかった。








「週末は仕事でいないから。僕。」



じゅー、とストローでジュースを飲みながら僕は左手でポテチをつまむ。正面にいるレイカは僕の左手を目で追っていた。

隣に座るジンとルイトはぽかんとしていた。

ちょっと面白い。



「仕事って……」

「あー、今回は殺しとかじゃなくて捕まえるんだってー。平和的平和的。」

「捕まえるって、大丈夫なのかお前…。目とか、その左手とか。」

「平気平気。不自由になったわけじゃないんだし」



ジンはならいいけどよ…と何か言いたげにポテチを口にいれた。ジンがはっきり言わないなんて、珍しい。


現在、僕は左目を眼帯で、左手を包帯で覆っている。
クラスの人やいろんな先生に驚かれたけど「木から落ちた。」って言ったら信じてもらえた。
「ソラならやりそう」とか「私もチビのころやってたー!」とか「木って、木って……!!」って笑われたり。なんでか心配されなかった。まあいつもそんなことばっかやってるから当たり前だけど。

たしかこの前はプールサイド掃除しててプールに落ちたり。それとか、高速道路飛び出してテレポーターに助けられたから良かったけど。



「で、僕、お墓参り行くから。」

「行くのか。気を付けてな。」

「おう。汽車乗り間違えんなよ。それから食事代とかちゃんと計算して…」



ルイトが次々に心配事を挙げていく。うん、やっぱルイトは嫁に出しても恥ずかしくないね。ルイトに子供ができたら大変だろうなぁー。


まあ、でもレイカ以外は「お墓参り」の意味を分かってないみたいでよかった。