日常
条件反射でノームは舌打ちをした。 ちなみにツバサが言っているこの枚数は紙幣ではなく、大地の組織の研究レポートを出せ、と言っているのだ。その枚数の数だけ。
大地の組織はガードが固くてなかなか情報が集まらないのでこうして交換を度々行っている。
「あの良聴能力者は深青事件に遭遇しているのにオリジナルか水の組織に殺されていない。なぜだ」
ノームが言う良聴能力者とはルイトのこと、オリジナルとはソラのことだ。
「ルイトはその頃、炎の組織に保護されていましたとさ。終わり。」
「何を目的に保護していた?」
「別料金を戴きますよ」
「ッチ、前言撤回だ。これ以上貴様に渡したくない。」
学園の門からでて二人は夜の街に入っていく。そこでふと、ツバサは思い出したように声を出した。
「そういえばさっきソラのことオリジナルって言ったけど完成したの?」
「オレを誰だと思っている。」
「へぇ、失敗作は何体だったわけ?」
「………。とにかく、オレはこんなの時間稼ぎくらいにしか思えないのだが」
「だって時間稼ぎだし」
「はぁ?」
「その間にいくつかの埋め合わせ、人格を塗り替える。」
「貴様、つくづく思うが悪役に向いてるんじゃないか?」
「そりゃどーも。でも残念だね。俺の立ち位置は悪役じゃないから。よかったね、俺が味方で。」
「まったくだ。」
ツバサは次に喋る言葉をのんだ。まさかノームがあっさり自分を認めるとは思わなかったのだ。 ノームは言った後に後悔した。すぐに顔をしかめて、「だがどうせなら悪役にいてくれればオレがもっと早く殺すのに」と付け足し、いつも通り二人の間に犬猿の空気が流れる。二人の喧嘩は夜の闇に呑み込まれ、虚しく響いて消えた。
「あ、ルイトだ。どうしたの?」
「おま……っ!?」
顔を赤面させてルイトは目線を天井へ向けた。ソラがいるであろう前方からは「ロリコンなの?ルイトはロリコンなの?」という呆れたような中性的な声が飛んでくる。
「お前いつまで居るんだ!?さっさとどっかに隠れて着替えろバカ!!」
「えぇー、訪問者兼目撃者のルイトが隠れるべきでしょー?」
「………」
黙り込んだルイトはソラに背をむけて座り込んだ。
ソラは開けていたタンスから服をひっぱりだしてそれを着る。 つい数分前、ルイトがソラの着替えを目撃するというハプニングが起こった。「何見てるのよっ!!」バチーン!!みたいな展開はなく、ソラは普通に喋る。ルイトは逆に照れてどうしようもなくなったのだ。
ソラは上半身に服を着ていないだけで胸当てはつけてるし、特になんとも思わないらしい。
「っていうか男女の体の差なんて大したことないじゃん。同じようなものでしょ。」
これがソラの思考回路だ。赤道上にある島国出身だからか、おおらかな性格である。 島ではもともと露出が多かったせいかソラはまったく気にする素振りを見せない。逆にルイトは北国出身で、しかもソラとは逆に恥じらう環境で育っているため、免疫力がない。
「少しは恥じらえバカ!!それでも女か!!」
「見た目は男の子だよ」
「そうだな、訂正するわ。つかお前なんで隣にいるわけ!?いつのまに!?」
「えへへー」
あ、そういえばルイト用事があるんじゃないの?とソラが両手を叩きながら名案が浮かんだときと同じ仕草をした。
ルイトがそうそう、と思い出してはい、とソラにコンビニの袋を渡す。
「どうせ何も食べてないんだろ?つかもう動いて平気なのかよ。」
「うん平気!あ!!アイスがある!!やったぁー!」
「腹壊すなよ。」
頬杖をついてルイトは苦笑した。 素直に感情をだすソラの頭を撫でて立ち上がった。
「じゃあ俺は帰るから。どうせ部屋隣だし何かあったら壁叩いてくれれば来るから。」
「はーい」
またねー、とブンブン手を振るソラを背にルイトはソラの部屋を出ていく。
パタン
そんな乾いた音がソラとルイトの間で鳴った。
「明日は集会なんだっけ…。多分、もうすぐナイトから電話が来るかな。」
そっとソラが呟いた。
―――胸騒ぎがする。 ソラは眉を寄せて深く深呼吸をした。
息を吐いたソラ目線を、隠すように部屋の隅においてある刀へ向けた。
今夜も、殺す。 僕が生きるために、他者を殺す。
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