紙面上の物語
 


「大丈夫か」

「あ、はい。ありがとうございます。」



身体の痛みが全てとれ、身軽に戻ったソラはノームの問いに笑顔で答えた。
ノームはそれにほっとしたのかふっと笑みを溢した。外見はソラよりも幼いが口調や雰囲気はやはり高位魔術師の風格が現れている。ソラは一通りお礼をまた述べると、わきでしずかにしていたツバサが口を開いた。



「じゃ、ソラはもう今夜から殺しに行けるからね。今は体を洗っておいで。俺たちはもう帰るけど大丈夫?」

「……うん」



先ほどまでのツバサとは変わり、いつも通りの雰囲気を灯し始めたツバサはソラに優しく言う。
驚きを込めながらソラはツバサを見ていると、ツバサの目の色が変わった。



「ねー。話があるんだけど。」

「奇遇だな。オレも貴様に話がある。」



ピリピリと二人の空気に電流が走る。二人はその空気のまま、表情は普段通りを装って会話を続けた。



「どうせなら外で穏やかに話を進めない?」

「名案だな。賛成しよう。」



穏やかに、を強調してツバサは笑顔で言う。ノームの方はひきつった表情でいた。
ソラは困っていて、どうすればいいんだろうと首を傾げていると、ツバサの方から別れの挨拶がとんできた。



「じゃあ行くね。もう寮に戻ってもいいよ。保険医には俺から言っとくから」

「わかった」

「ああ、あと、さっきも行ったけど集会があるからソラも準備しときな。多分ウンディーネからソラに指名がくるんじゃない?」

「……僕?いつもはナイトだけじゃ…」

「今回は"呪い"のことがあるから。じゃあね。お大事に。」



ノームが部屋を出る際に「よい夢を」と挨拶をして犬猿の仲である二人は保健室から出ていった。

二人が出ていくときに深々と頭を下げていたソラは、出ていったのを音で認識すると頭を持ち上げた。



「………」



結局、何をしたかったんだろう。

ツバサは教えてくれなかった。何も、分からない。ソラはもやもやした頭をぺちっと右手で軽く叩いて気分転換を試みた。



「……部屋に、帰ろ」



血のついた服装のままソラは立ち上がり、テーブルに置いてあった学生鞄を手にとった。

保健室に設置されている水道で洗える所だけ洗って、急ぎ足で保健室を出る。



(……なんで僕、あのとき自己防衛で魔術が使えたんだろ…。)



これでは多重能力者ではないか。
存在がありえないとされるため、一体どういう事なのかさっぱりわからない。



「そういえばあの魔術の属性……ラリスと同じだったな…」
















「本名、ミソラ・レランス。
高位魔術師を輩出する名家には珍い能力者。周囲の人間は偏見を抱くことはなく、幸せな時を過ごす恵まれた娘。

彼女には姉が一人、マレ・レランスが居た。彼女はリャク・ウィリディアスに憧れを抱き、属性開発を行っていた人間のうち一人にはいる。

恵まれた環境の中で過ご彼女らに、悲劇は付き物。
両親が旅行先の事故で死亡。
家督は父親からソラの姉へ移り、葬式を挙げてかなしみに暮れる一族の中で一人だけかなしみを感じない人間が居た。
それがミソラ・レランス。つまりソラ。

彼女は自分が異常だと、可笑しいと自問して自らを追い込んでしまう。

幼い彼女は彼女なりに考えた結果、大切な人はたった二人だけなのがいけなかったんだ。もっとみんなが死ねばいいんだ。
そう考えた。

初めは一族のみを殺すだけだったが、それでもかなしみが訪れることはなかった。手を伸ばしていくうちにいつの間にか島の全員を殺していた。
と、いっても実際は火災による被害が大きかったのだが。

結局、ソラが殺したことには変わりはない。姉はデザートだったのかな。最後の最後まで殺さなかった。

当日たまたま訪れていた観光客の半分は無事に非難した。ソラは殺す気なかったからね。だが半分は火災に捲き込まれた。
だが一週間後、証拠隠滅のために水の組織の手により殺害されている。

その後に水の組織がソラを勧誘。そして成功して現在に至る。」



ツバサが喋り終わるとノームは考えるように眉をひそめた。
ツバサは「十枚ね」と情報に対する対価を手で現す。

歩きながら二人は珍しく喧嘩をしないで会話を繋げる。

何やら考えていたノームがツバサを見上げて「疑問がある。」と問う。ツバサは「一枚追加ーー」と真っ黒な天に向かって人さし指をつきだして対価を増やした。