価値
「そんなソラ君の夢を叶えてあげようかと。」
「……はぁ?」
「まぁ、結局はソラの実力が要なんだけどね。さて最後の問題に入りまーす。ソラの寿命を延ばす方法を俺が知っているか知らないのか、どちらでしょーか」
「嘘…」
ニタリと笑ったツバサにソラ目を丸くする。そこでツバサは「時間切れでーす」と、1分も経っていないのにいう。今度は刀を使わず、ソラを挟んだままベッドの上に立った。ソラは何をするのかと動けないまま見ていた。
「最後なんだからもうちょっと俺も楽しみたいよね。」
ガッとソラの血だらけの手の上に足を乗せて力をゆっくり入れていった。 血がさらに溢れる。
背をベッドから浮かせ、ソラはツバサの足を退けようとした。しかしツバサの体型からは考えられないくらいの力が加えられているようでびくともしない。
(このまま、だと、手、ガ……!!)
息がさらに荒くなり、滝のように冷や汗を流すソラに、ツバサの表情は笑顔を見せていた。 これは、よく表現する新しい玩具を得た子供の様な笑顔だった。―――否、それよりももっと純粋で、純粋過ぎて底知れぬ漆黒がもれだしている。
「――――あ、あぁぁ゙ッ」
濁りを増していくソラの小さな悲鳴。抑えるように噛んでいる右手首からは血が流れ、自らの服を通り越してベッドへ到達しそうだった。
苦しむソラに躊躇いもなくゆっくり手を砕いていく。
「もっと叫んで」
噛んでいるソラの右手をツバサは口と離して持っている刀でベッドと縫い付ける。 更なる痛みを声に現さずソラはツバサを睨んだ。
こいつの思い通りに大人しく人形にされてたまるか、という思いを瞳に宿す。
『意外ね。気が合うじゃないソラ。今回だけ共闘しない?』
(不本意だけど、この状態を脱会できるならいいよ―――。)
声にあらわすことのない会話。 ツバサはまだ笑顔。そしてこの会話がお見通しなのではないかと思うくらいのタイミングで一気に手を砕いた。
ソラの悲鳴が、悲鳴が保健室を支配した。
「防音対策しといて正解かな」
グリ、と今度は刀を刺したまま動かす。 次々に襲う激痛から、悲鳴を抑えてソラはわずかながらツバサを驚かせる言葉を紡ぎ始めた。
「"流れる血に、更なる血を加えて濁らせてしまえ"……」
「!?」
長年の経験からツバサは直ぐにベッドから離れた。 直後、ツバサがいたそこにソラの流した血が太い針のようになって突き刺さった。 ソラは手にささる刀を抜いて重傷を負う手で握った。
「ただの自己防衛にしてはかなり常識を崩すね。レランスの血は流れていたわけだ。」
すぐに冷静になったツバサは、たのしそうだった。そして「よかった、よかった」と呟いた。
「お見事。」
「?」
「そしてありがとう。今夜は赤飯かな。」
「どういう…」
「俺たちの手の上で踊ってくれたことに、ありがとう。見事に新しく世界を開拓してくれたソラとラリスに感謝。ついでに"呪い"をかけた魔女にも感謝しとこうかな。」
すぐにラリスがソラの中で『どういうことよ…』と混乱していた。ソラも混乱を表情であらわしていて、ツバサはそれらを見て笑った。ソラの血がべったりと塗られた手を舐めてツバサは左手の掌を天井の隅へ向けた。
それはまるで執事や従者のような丁寧な動きであるが、ツバサの笑顔は狩りに成功した虎のようだった。
「あちらをご覧ください、お嬢様方」
あの動きは意図的なものであったようだ。 ソラは警戒心を緩めずにそっと手のある方へ向けた。 そこにあるのはただの監視カメラ。
この学園には手洗いや更衣室など以外には監視カメラが設置されている。 過去に生徒が異能を暴走させてしまったことがあり、すぐに駆け付けられるように設置したようだ。
「あの監視カメラから誰がこっちをみているでしょーか。」
「……、警備員でしょ」
「ぶっぶー。ハズレでーす。」
ツバサは近くの棚に置いてあった消毒液がはいった瓶をソラに投げた。今度はソラは避ける。 しかし前方を見たときにはツバサがいない。
「ハズレだからまた罰ゲームね」
「っ……、さっきので最後って言ったのに」
「俺様ルール。」
最低だよ、サラマンダーさん。
そう言おうとしたが止められた。ツバサの手がソラの手を塞いだのだ。 ソラの背にツバサが居る。ツバサもベッドの上に乗っているのだ。ソラは手を噛もうとしたがその前にツバサが囁くように喋った。
「君は狂研究者のモルモットに過ぎない存在だって理解してる?」
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