欲
 


「理由が聞きたい?」

「………っ、べつに…」



ズンズンと、全身に染みる激痛にたえながらソラはツバサに答える。その左手には、刀が手を含めてベッドまで突き刺さっていた。すき間からドクドクと脈をうちながら流れる生暖かい血、血、血、血……。
きっと刀を手から抜くとブシュッと血が吹き出るだろう。

骨など、重要な部分を避けて異物が手の中に入り込み、ソラは違和感も共に感じていた。

ツバサは刀を持つ右手と反対の左手を突き刺さっている手に伸ばした。そしてそっと傷口をなぞり…。



「知りたいんじゃないの?自分がなぜいきなりこんな事をされなくちゃいけないのか。」

「、知りたいけど……」

「素直に聞けばいいのに。ちなみにこれは俺の善意で行ってるんだよ。感謝して欲しいなぁ」

「どこ、があ゙ぁ゙ぁ゙…ッ!!」

「…クククっ…。あれ、なんか俺のポジションが悪役っぽい。」



ツバサは会話の最中に撫でていた左手を止めて、その親指をその斬り口に押し込んで、傷口をぐちゃぐちゃにしていく。
刀を抜いていないせいで、ツバサの指にも少し傷がうまれるが、本人は全く気にしておらず肉と血が混ざりあったソラの手を見て笑みを浮かべた。

少年を思わせるツバサの口調は親しみや安心感を得るものであったが、今では何の役にも立たなかった。



「さて問題。間違ってたら刺していくからね。ああ、でも刀って斬る道具だから斬った方がいいのかな?」



ソラの濁った悲鳴を聞き流しながらツバサが言う。ソラはカラの右手首を口で噛んで声を殺そうとするがそれでも声は溢れる。

ツバサはギシ、と音を鳴らしてベッドに両膝を立てた。挟むように、固定するように間には痛みに堪えようとするソラがいた。

ツバサは刀を抜いて「じゃあ始めるね。問題、1!」といってソラと目を合わせる。同時にツバサは刀をソラの顔の横の枕に刺してそれを軸に上半身を支えている。



「俺の異能は一般に何と言われているでしょーか」

「……不死」

「正ー解!さて、次の問題です。俺の異能で他人の傷を癒すことはできるでしょーか」

「…出来ない、でしょ…。だって不死は、自己回復能力、の延長……じゃ、っ!!」

「ハズレでーす」



軸を抜いてツバサは代わりに血で濡れた左手を軸にした。抜いた刀を使ってソラの足に真っ直ぐ深い線を一本描く。

舌打ちをする暇もなくソラはまた悔しそうに顔を作り替えた。
ソラは足でツバサを蹴ろうと考えていたのだ。それが不発のうえ、出来なくなったのだ。



『私、こいつ大っ嫌い。』



ビク、とソラの左腕に刺されたのとは別に痛みが走った。すぐにソラは感覚で"呪い"の、ラリスの仕業だと確信した。



「あ、もしもし、ラリス聞いてる?」

「ッ!?」



なんでツバサが知ってるの、いくら情報組織だからって、限界があるに決まっている。どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして。

その緊張と焦りはソラのものだけではなく、ラリスにも混ざっていた。



「ソラの"呪い"は成長し過ぎた。人格まで形成してる辺り、すでに"呪い"は最終段階。ソラを喰って喰って喰って殺して、消滅する。"死"属性の最上級魔術なんじゃないかな。」

「え?」

「さて、最後の問題にしようかな。不死は死にたくても死ねない。けどソラは生きたくても生きれない。真逆だね。」

「ツバサは死にたいの……?」



痛みの感覚よりも、ソラはいまの状況で手一杯だった。
ツバサが何者なのかわからない。ソラにはツバサが最悪の立場であるかもしれないという焦りで脳を埋め尽くされてしまいはじめていた。



「ソラは魔女の事をどう思う?」「殺したい。」



即答だった。
ツバサはそれに苦笑した。

実際、ソラは魔女を恨んでいる。今すぐにでも殺したい程に。
その理由は「姉を魔女に殺された復讐」である。表向きでは。本当は「姉を自分より先に魔女が殺したから」だ。
せっかく、ソラは人が死んで悲しいという悲観を得ることができたはずなのに。それらを奪い、さらには"呪い"を植え付けた。

――――許せない。

例え記憶を全てなくそうが、四肢をもぎ取られようが、自分が死のうが、絶対に絶体に魔女を殺したい。

この目に、魔女の死に様を焼き付けたい。