二人の
 


「ん、で、つまり能力は……」

「ああ、言ってなかったな。
簡単に言えば共有しているから暴走はしないんだ。詳しく話して時間をとってもしょうがないだろう。次の話だ。」

「あ、はい。」



あっさりと、簡潔に終わらせ、シングは次の話題に連れ込む。



「守護者[ガーディアン]は主人[マスター]から一定の距離から離れてはいけないんだ」

「離れちゃだめなの?……なんで、」

「名前の通り、守護者は主人を護るためにいるのです。ですから、離れては護ることができません。」

「なるほど」

「しかし離れたら嫌な事が起こる。」

「嫌な事って?」

「守護者が眠る。」

「は!?寝る!?」

「そうです。主人が守護者に近付くまで眠り続けます。」

「いつまでも?」

「はい、いつまでも。」



シングとミルミが言い、ソラは「それは嫌だなぁ…」と呟く。シングはさらに、まだある。といった。ソラは次はなんだ、と目を向けた。



「俺が怪我をするとミルミも同じ怪我をする。
しかしミルミが怪我をしても俺にはなにも起こらない。」

「?どゆ…」

「いいか、ミルミ」

「はい。」



ソラが首を傾げるとシングは短剣を取り出した。それはシングの武器だ。
ソラは何をするんだろうと黙ってみていると、シングはそれを自分の指に当て、すっと横へスライドした。

短剣を当てていた中指からは血が破れた皮から外へ流れ出てきた。しかし傷は浅いのですぐに血は流れることをやめた。



「このように俺が怪我するとミルミの中指も…」



シングがミルミに視線を向ける。ミルミはソラに向けて広げた手をみせた。



「……あれ?」



ソラは間抜けた声を出した。
ソラが見ているミルミの手には赤い線がある。
それは中指から流れてきたもので、その傷は何かで切られていたものだった。すぐにソラはシングの中指を見て、またミルミの中指を見る。その繰り返し。

そして何分か経ち、ソラがやっと出したのは「……おんなじ…」の一言。

目を点にしてまだきょろきょろと見比べる。



「えっと…、これはさっき言ってた…」

「そうだ。さらにその延長で、ミルミが死んでも俺は死なないが……」

「マスターが亡くなると私も死にます。これも怪我も私とマスターの意思は関係ありません。」

「……うわ、」



ソラはそれだけ言うと嫌そうな顔をした。



「うえぇ…。なんか、いいことがないし…。嫌だなぁ、契約って…。」



それでもソラは「寿命が延びるのはいいな」と呟いた。
そこへミルミが少し言いにくそうな声で「どうしてソラは深青事件を行ったんですか…?」と聞いた。
ソラは「…動機?」と聞き直し、再び口を開いた。



「うーん、どこから話せばいいかな…。あ、そうそう!」



ポン、と手のひらに丸くした手を叩き込んで少し顔を明るくした。しかしどこか暗い。



「僕の本当の名前はミソラ・レランスっていうの。
レランス家っていう高位魔術師を輩出する家で有名なんだけど。」

「聞いたことがある。深青事件で血は途絶えたらしいが…、ソラは…」

「正真正銘レランス家の娘。残念ながら僕は魔術師じゃなくて能力者だけどね。あ、でも血は流れてるよ。」



ソラは懐かしむようにそっと微笑を浮かべた。



「親や親戚、周りの人達みんな偏見を持たずに優しく育ててくれたよ。
だから僕もみんなも幸せだった!けどね、僕が10歳の時に両親が死んだの。みんなかなしくて、かなしくて、かなしくて。でも僕はかなしくなかった。なんでかなって僕なりに考えたけどわからなかった。
で、考えた結果、」



死んだ人の数が足りないんじゃないかっておもったの。



当たり前の事を言うように、ケロッとした顔でソラは言った。シングとミルミは何を言えばいいのか分からず沈黙をしまままだった。



「それが動機。まあ実際島のみんなが死んでも何とも思わなかったけどね。
それがどうかした?」

「……いえ、ただ気になったもので…。
すみません、話題をそらしました。」



ミルミが軽く頭を下げ、元々の話題へ戻すように言う。シングは曖昧な返事をして話を戻した。



「契約効果は以上だ。ちなみに追加能力は契約名通り、"流血操作"。
ソラが"呪い"だと分かったのは、左手から常に放出している黒い霧だ。」

「……え?そんなもの見えないけど…」

「ミルミもそう言っていた。他の人も見えない様子。もしかしたら主人[マスター]が関係しているかも知れない。そう思ってラカールに連絡してみれば、当たりだ。」

「……ラカールも見えてたんだ…。でも、それは何で…。契約効果じゃないんでしょ?」

「そう言い切りたいがな…」

「えっと…?」

「契約については不明な点がいくつもある。きっと、契約効果に何か含まれているかもしれない。」



そう言ってシングはまっすぐソラをみていた視線をずらした。