契約効果
 


ルイト、レイカ、ジンは夕食の時間になったと言ってシングたちよりさきに保健室をでた。

そして間もなくシングが真剣な表情でソラに話しかけた。



「"呪い"なのは本当か」

「え、あぁ、うん。"死"属性の。」

「……そうか。ならば、俺とミルミはソラに話すことがある。真剣な話だ。」

「…うん。」



ソラもシングの話を聞くうちに徐々に緩めていた顔を引き締めた。―――――シングとミルミにバレないように僅かに拳を握りながら。


"死"属性とは、習得が非常に難しい属性だ。大地のボスであるリャクが開発した"天"属性とは同じではない。
"死"属性を扱う人間は世にいるか居ないか―――風の組織のボスは召喚師であり、"死"属性を扱うが―――というほどだ。

その僅かしかいない"死"属性を操るとある魔術師は、ソラが犯した罪に対して呪いをかけた。
それが現在ソラが背負っている"呪い"だ。

ソラは自分を呪った魔術師を「魔女」と呼んで恨んでいる。いつか殺してやる、と。

魔女はソラの実の姉を殺したのだ。

ソラはその復讐のために、"呪い"を解除してもらうまでは死ぬわけにはいかない。



「俺とミルミの関係について、少し話しておこうかと。」

「契約のこと?」

「そうだ。ソラが言った通り俺たちは"血の契約"をしている。
ソラは契約効果を知っているか?」

「け、…契約こ…。わかんない。」

「じゃあ話しておこう。
これは別にルイトたちに秘密にしておかなくてもいい話題だが、現段階では言わない。」

「じゃあなんで僕に」

「なぜ俺たちがソラが"呪い"だとわかったか、知りたいだろう?」



素直にソラはうなずいた。

左腕全体にに刻まれた"証"は人に見せる機会はないし、口走らないように細心の注意を払っている。万が一覗き見をしていてもソラの能力ですぐにバレてしまうだろう。

うなずいたソラを確認してからミルミがそっと口を開いた。



「"呪い"についてわかった理由を話す前に主人[マスター]と守護者[ガーディアン]の関係、つまり契約について話す必要があります。」

「簡単にいえばさっき言った契約効果、だ。意味はそのまま受け取ってもらえばいい」

「りょ、りょうかい」



なんだか難しい話になりそうだな、とソラは胸の中でつぶやき、眉間にシワをよせた。

シワを作ったソラの表情をみてシングは苦笑した。



「契約をすると色々な事ができるようになったり、できなくなったりする。」

「……例えば?」

「良いことであれば、契約の名に沿った能力の追加だ。」

「能力の追加っ!?多重能力者ぁ!?」

「似たようなものですね。」

「ありえないでしょっ」



多重能力者は存在しない。存在なんてありえない。

それは能力者にとどまらず異能者…、否、無能者を含む人間の常識だ。

異能はただでさえ普通よりも脳を異常に活性化させることで現れる特殊な力だ。せいぜい一つの能力を持つことが限界。
複数の能力を持とうとすれば人間は理性を失い、暴走する。

そのうち操作できなくなった異能で身を滅ぼす。

異能を複数持つことが出来る時間はせいぜい60分。



「それが契約は特殊でな。二人で全てを共有しているんだ。」

「……共有…」

「たとえば俺の寿命が20まででミルミが80までだとしよう。契約をしているからこの二つを足して÷2をした状態が今の俺たち―――契約をした状態だ。」

「契約すご!」

「俺は寿命が延びて嬉しいがミルミは寿命が縮んでしまう」

「マスターのためなら構いません。」

「……はぁ、守護者の思考はわからん。」



真面目な顔でミルミはいい、シングは困ったようにため息をついた。



「まあこんな具合で、能力を一つ追加されることがある。これが利点だ。」



そう言うとシングは少し辛そうな顔をしながら「次はその逆だ。」と言った。