ソラ・レランス
 


「………っ」



ルイトは言葉を詰まらせた。別に信じたわけではない。

ただ、もし真実だとしたら…。と考えていたのだ。

ソラが言った、「ブルネー島」。ソラはルイトが本で調べるより前から知っていた。
ソラは「水の組織だから」とも言っていた。

水の組織が行う仕事は主に暗殺――…。
その仕事の成功率は非常に高く、仕事の依頼は絶えることを知らない。

ソラが水の組織に所属しているのが本当であれば始めに言っていた「人殺し」は事実ということになる。



「ソラ、呪いって何?何で……?」



控え目にレイカが問い掛けた。ソラはそれに対して苦笑いを浮かべて答える。



「僕が女って事と、人殺し、ブルネー島出身ってことを前提に考えればすぐにわかると思うよ」

「………深青事件の…?でも、そんなの…。それに犯人は撲殺されたって…」

「記録上ではね。でも実際、ここに、こうして生きてる。」



レイカの目が震えた。
感情を言うならば……、恐怖。

レイカは信じた。ソラが女の子であり、人殺しであり、ブルネー島出身である事を。
確かな証拠は無い。
だが、レイカは感覚で悟る。

ソラ の言うことは事実だ、と。
普通ならば信じない。

ただ、疼くのだ。
眼帯の底に眠る右目が。
レイカに語りかけるように。

すべては、ただの、勘、だ。



「……わけわかんねぇ」



ぽつりとジンが呟いた。
まだ不信のルイトの隣で彼は眉間にシワを寄せてソラを見下ろす。
もともと目付きが悪いせいか、その表情は迫力があり。
しかしここにいるレイカ以外誰も怖じ気なかった。



「俺バカだから信じる信じない以前にそれを事実だと受け止める。
けど何で今まで黙ってて突然言う気になったんだよ?」



単純な疑問であった。

それに対してソラは短く返答した。



「なんか、嫌な予感がする。」



それだけであった。

バレそうになるのは今までに何度もあった。
シングとミルミにバレてもルイトたちには隠し通す事ができた。

それでもあえて話すのはただの自己満足かもしれない。



「嫌な予感?」

「うん。僕もよくわからないんだけど…。」



テキトーでごめんね、とソラは苦笑した。

容姿、声、表情はすべてルイトたちが知るいつものソラと同じ。ただ違うのは、雰囲気だ。図書室でもそうだった。
ルイトは違和感を感じて無意識に視線をずらした。

深青事件の詳しいことはすべて闇の中。
ソラの過去に、現在起きている現状もよく解らず、その話を終わらせるかのようにミルミが思い出したような声をだした。



「もうすぐ夏休みですね。」

「そういえばそうだな。」

「シングたちはまた帰省か?」

「実家がうるさくてな。始めの二週間くらいはここにいるだろう。」



それはいつも6人でする会話だった。

ミルミが持ち出した話題にシングとジンが乗り、ソラたちに話題を振っていく。



「私はずっと学校かな…。」

「俺とジンも学校。つかジンは補習があるから嫌でも学校だわな。」

「おま…!!俺がテストで95点とったの知らねぇだろ!!」

「それ体育だろ。」

「ぐ…」

「あははっ!ざまーみろジンっ!!」

「ソラも同じだろーが。棚にあげるな。」

「そいえば僕の部屋の棚にお餅投げたら取れなくなったんだよね。」



コロコロと表情を変えながら近い夏休みについて明るく話すのはどこにでもいる学生たち。

これがずっと続けばいいのに、と思うのはそれぞれ暗い部分を隠す6人全員が願うことだ。







ある者に言わせれば、この6人が出会ったのは偶然とも、必然とも、運命ともいえるそうだ。その者は、誰よりもたくさん世界を見て、誰よりもながく生きてきたが、6人の出会いをまるで漫画のように珍しいものだと苦笑を浮かべる。