契約者
 


世には数えきれないほどの人間関係が存在する。例えば「友達」「恋人」「師弟」……。
それらのうちに「主従」関係が存在することは言うまでもない。

しかし世には変わったら「主従」関係がある。

特殊な契約を交わして、一生をその契約相手と過ごすのだ。

契約相手は一人。
二人組の完成だ。



「なんだ、ソラも知っているか。」

「幼馴染みだって、よく聞かされてた…。てゆか血の契約!?こわいって!!よくできたね…」

「やってみれば案外呆気ないぞ。」



契約にはいくつか種類がある。
ソラが言っているラカールとチトセの二人は、ラカールという少女が主人[マスター]でチトセという少年が守護者[ガーディアン]だ。契約の種類は"水"。水の契約だ。

他にも鉄の契約、聖の契約、空の契約、火の契約、雷の契約、風の契約などがある。

が、

もっとも危険視され、誰も行わないという契約がある。それが"血の契約"だ。



「いやー、シングとミルミって契約してたんだ。だから『マスター』って呼んでたんだね」

「そうですね」

「ってことはシングが主人でミルミが守護者なんだよね。なんか納得ー」



ソラは緩く笑った。

契約をする理由はいくつもあるが、危険な契約をした二人にはきっと闇がある。暗い、何かが。

ソラはそれをも悟って笑った。
彼らとは共通している部分があるのかもしれない、と。

後にその闇を聞いたときには、ただの「共通」どころではなくて盛大に驚くことになることも知らずに――――。



「ソラ連れてきた」

「うぅ、血…っ」

「まだ言ってんのかよ」



保健室の扉が開かれて、現れたのはルイト、レイカ、ジンだ。

レイカはさきほどソラの所へルイトたちと共に行こうとしていたが、廊下にある血とぐちゃぐちゃの肉の塊をみてその場で吐いてしまった。
ジンはレイカの付き添いとして一緒に教室へ戻っていたため、ソラのもとへは三人しか行かなかった。

廊下を汚したのはツバサだ。
そしてリャクがいっていた「倒れていた女子生徒」はレイカの事をさしていたのだ。



「んじゃ、話すねー。これから僕が話すことは暗い話題だから覚悟よろしく」



ルイトたちが近付いたのを確認したソラは、暗い話題を持ち出そうとした。
しかしソラの話す口調はいつもと同じで明るく、暗い話題というのは嘘だと錯覚させるものだった。



「僕は人殺しです。」



その一言は、冗談にしか聞こえない。ルイトとジンは「はぁ?」と声を合わせて言う。
レイカは「冗談だよね!?」と言っているが少しだけ真に受けていた。



「だぁーかぁーらぁー、人殺しだって!具体的に言うと、学園の外で起きている連続殺人の犯人は僕だし、それに」

「んな証拠もないことを…」

「証拠は残さないように気を付けているから証拠なんかないよ!あー、あえていうなら昨晩は事件がなかったでしょ」



シングとミルミは目を合わせた。
ルイトが「確かになかったけど……」だからなんだよ、と言いたげな視線をソラに送る。



「昨日はシングたちが僕の部屋に泊まったから、中止したの」



事件は学園の周囲で行われている。学生が犯人だという可能性は考えられない訳ではない。
死亡推定時刻は、生徒と教師がすでに眠りについている頃合いだ。



「ソラが犯人だとしても、どうやって学園から出てるんだよ」



消灯時間になると学園の出入口はしっかりロックが掛けられていて、監視カメラも設置されている。
もし真夜中に出入が確認されると翌日は、教師から呼び出しをされる。



「僕は四大組織のうち、水の組織に所属してるのー。だから、この学園の校長やってるツバサとグルなわけでして」

「ツバサって校長先生なの!?」



レイカが驚き、ジンにうるさいと頭を叩かれた。眼帯に隠されていない左目が涙で潤う。



「……信じられない」



ルイトはソラの言うことをどうしても嘘だとしか思えず、ぽつりと呟いた。
ソラはどうしたものかと苦笑いを浮かべており、うーん、と唸る。

信じていないのはレイカやジンもそうだった。
シングとミルミはすでに悟っていたらしく、信じていた。



「僕が女で、ブルネー島出身で、島での事件をきっかけに"呪い"をかけられてることが、全部真実だったら、」



どうする?

先程の明るい声が少しだけ低くなり、試すような視線になった。