おはよう
 


「お姉ちゃ……って、あれ?ここどこ?」



ソラが突然ベッドから飛び起きた。そしてはっとして辺りを見る。



「………」

「………」



キョロキョロ見ていたら不意にルイトと目があった。そして無言。
ソラは視線をずらす勇気がなく、ルイトは苦しそうだったのに一変したソラに驚いている。



「起きたか、ソラ」

「調子はどうですか?左腕は痛みますか?」

「え…、あ…左腕…。大、丈夫だけど…何で…」



シングとミルミが話し掛けたことで、ソラはルイトから視線をずらす勇気が湧いてやっとのことで視線をずらした。

しかし「左腕」という決定的な発言により、ソラの空気が変わった。



「……その事について話そう。ルイトと向こうで戦ってるレオには席をはずして…」

「バレてる、のかな…。じゃあいっか。
ねールイトー。レイカとジン呼んできてー。」

「えっ」



凍結しているルイトにソラは話し掛け、ルイトが解凍する。
よくわからないままルイトは頷いて保健室をでた。

そして出入口で戦っていたレオを含めた二人はルイトが扉を開けたと同時に入り込んだ。



「ってぇ…」

「あいたたた…」



勢いで転んだ二人はそれぞれダメージをくらう。

レオが仰向けになっており、柔道の受け身をとったのか両手は床を叩いていた。そしてもう一人。
今年卒業の19歳の女子生徒が仰向けで倒れていた。

腰までとどく長い髪が白い保健室の床に散らばる。
唸ったあとすぐに顔を上げて起き上がった。濃い紫の瞳がソラを捉えて半ば叫ぶように声を張った。



「ソラ!!大丈夫!?」



彼女の影は常に波打つように揺らいでいて、見た者に違和感を与えた。



「……シャトナ…」



うわぁー…と眉を眉間に寄せたソラは明らかに嫌そうな顔をしている。

そんなソラにお構い無く彼女は先ほどまでルイトが立っていた場所に行き、両手をベッドに付けて体重を支えた。



「ソラ大丈夫!?どこか痛くない!?」

「……あー、うん。平気だよ。ってかなんでシャトナが……。」



ソラが彼女――――シャトナを見ながら言う。
横にいるミルミにこっそり「僕、この人苦手なのー」と伝えた。ミルミの返答は「…そうなんですか」だった。

ミルミがシャトナの揺れる影から目を離さないので、興味があることがわかる。いや、目を離さないで見ているがわずかに後退してシングの後ろに隠れている。



「なに?また魔女?」

「間接的にはそうだけど、てか僕は大丈夫だからシャトナは帰ってていいよ。むしろ帰ってください。」

「なんでよ!!私はこんなにもソラを愛してるのにッ!!」



酷い!!と一発避けんでから、シャトナの影が大きく揺らいだ。すると突然影が伸びてシャトナをシルエット状態にしてしまった。



「っ!???」



ミルミは無表情のまま肩を揺らしてシングの両肩をつかんで顔をうつ伏せた。

そのままシャトナのシルエットは足元に残していた影に吸い込まれて消えた。
足元にあった影も波紋を作って消える。


この学園ではあちこちで異能による移動が行われるため、珍しいことではない。


「マスター、あの人嫌な感じがします。」

「嫌な感じ?」

「はい。」

「ただ、影が怖かっただけじゃないのか?」

「………違いますよ。とにかく、マスターは私が守ります。」

「逆になりそうだがな、我がガーディアンよ」



ははは、と笑うシングにソラは首を傾げた。
そして「あれ!?」と声を上げた。



「レオが居ない。シャトナに連れてかれたのかな……。
てか前から思ってたんだけど、なんでミルミはシングのことマスターって言うの?」

「そうだぞ、ミルミ。気軽にシングと呼べばいいだろう。」

「上位に対する者への失礼にあたりますので嫌です。チトセだってラカールの事を"お姫様"って呼んでいますよ」

「だが、感情が高ぶると"ラカール"と呼ぶじゃないか。」

「それはそうなんですが…」

「……えっ。…え、え、ええ…!?」



ええぇぇぇぇぇ!?

突然声を張ったソラに対して、再びミルミは肩を揺らした。
さっきまで苦しそうにしていた人とは思えないくらい大声を出したソラは続けて言った。



「ラカールとチトセ知ってるの!?もしかしてラカールたちがいってた血の契約をした友達ってシングたちの事!?」

「………え?」