訪問者脱出者
 

ガチリ



重い音が視聴覚室に響いた。

青年の声を聞いてすぐにソラはツバサだとわかり、取り合えずどうするのか見ることにした。

血で染まったツバサの手の跡が、扉の取っ手についている。気にすることなくツバサは床を傷付けないように大鎌を引きずってきた。ツバサの体のあちこちにかえり血が染み込んでいて、男は驚いて目を見開いた。

血なんて見馴れているソラはなんの反応を示さなかった。それよりも、吐血をしていたせいで貧血気味だった。



「もしもーし、テッド?あのさ、特別棟を封鎖してくれる?ちょっと血があちこちに……。ああ、あと数人がどっかに潜んでるハズだから捕まえといて。殺しちゃダメだよ。とっても愉しい拷問するから。」



ツバサがいきなりポケットに手を突っ込んで取り出したのは携帯電話。
敵を目の前にして堂々と電話を描けたのだ。

男は非常識な対応に気が抜けてただツバサをみていたが「拷問」と聞いてサッと顔色を変えた。



「……あなたが、サラマンダーですね?」

「そーだよ。」

「どのボスも若い姿ばかりのようだ…。」

「若い方が動きやすいでしょ。
それより、君は大地の組織所属研究員だよね。なんの様?穏やかな理由じゃないよね?」

「……」

「水の組織所属のソラをこんな所に捕まえて、しかも炎の組織の本部に攻めてきて、見事に二つの組織に喧嘩を売ったわけだ。」

「……そうですね」

「覚悟できてる?」



ソラが再び血を吐いた。
力が入らなくなり、ぐったりと壁にもたれている。

その時、ちょうどバキッと固いものが折れる音と重たいものが倒れる音が同時に視聴覚室を埋め込んだ。



「あ、ソラ!!」



扉が無理矢理開けられた音だった。
そこから現れたのは、いつも耳に掛けているイヤホンを取ったルイトだった。
続けてシングとミルミが入ってくる。



「!?」

「これはこれは愉快な…。君たち授業は?」

「自習だ。」



シングはそれだけ言うとすぐにソラの元へ駆け付けた。



「大丈夫かソラ!!」

「マスター、やっぱりソラは……」

「ああ。それより今はソラを保健室へ運ぼう。いいか、ツバサ」



ソラの周りに集まった三人は、すぐにソラの変化に気付いた。周囲に広がっている血にルイトは驚いて動きが止まってしまう。



「いいけど、丁寧に運んであげてね」

「言われなくてもそうする。」



シングはミルミに手伝ってもらい、ソラをおんぶして立ち上がった。ルイトはソラが落ちないように背中を支えて視聴覚室をでた。

ソラたちが出ていったのを目で確認したツバサはニヤリと口角を歪ませて、男との距離をいっきに縮めた。

男は反応して下級魔術を唱えた。

あと一瞬で魔術が発動するところで―――
あと一瞬で大鎌が男に触れるところで―――

止まった。

いや、止められた。



「この感じ……最悪。」

「…………ぁ゙」



大鎌の動きをとめられたツバサは、心底嫌そうな顔をした。
男は濁った声を小さく漏らして出入口に目をやる。そこには小さな少年が、怒りを纏いながら立っていた。

小学生から中学生を思わせる容姿は、可愛らしいが少年そのものの雰囲気には可愛らしいところはない。



「サラマンダー、貴様……。何だ、あの廊下は!!入口の所で女子生徒が倒れてたぞ!!」

「うるっさいなぁ」



少年の声が響き、ツバサを苛立たせた。
彼の体に合わせた白衣には、目の前の男と同じ腕章がつけられている。白衣の違うところといえば、少年の胸にある小さなバッチ。細かくいえば白衣のボタンも違う。



「その男はオレが預かる。どけサラマンダー」

「チビの分際で偉そうに。つかノームが微生物だからこいつらがこっちに来たんでしょ?責任とれ」

「オレは微生物じゃない!」

「どうみても微生物じゃん。鏡でも見たら?」



ツバサが会話を交わす相手はノーム。ノームの本名はリャク・ウィリディアス。サラマンダーであるツバサと犬猿の仲の、大地の組織ボスだ。