発作、促進、吐血
 


レイカがふとソラの席を見ながら呟いた。



「ねぇ、ソラは?」



教室のどこにもいないソラを心配してレイカは、自習の時間を使って探そうと立ち上がった。



「どうせいつものように学園から出てケーキ屋でも行ってるんじゃね?」

「今日、なぜか校門はガッチリと閉められていたが」

「……じゃあサボりじゃね?」

「しかし先生が授業止めてまでソラを探すのはおかしくありませんか?いつもは休み時間にしていますし。」

「レオもいないしな…。
ルイトは何か知らないか?一緒に図書館にいっただろう?」



ミルミが言った先生とはナイトのことだ。

ジンは、ソラはチビだからどっかに埋もれてんじゃねーの?というが、レイカは苦笑いを浮かべた。
ジンはだんだん苛立ち、レイカにちょっかいを掛け始める。

シング、ミルミ、ルイトはすこし考えはじめ、やがてシングがぽつりと呟いた。



「探しに行こう」



ミルミは「マスターが言うなら私も着いていきます」と行く気満々。ルイトは止めようとしたが、どうせ自習ならいいだろ、と考える。
もともと考えるのが得意ではないジンはもちろん賛成だ。レイカは言うまでもなく道連れ。











「―――――ゲホゲホッ」



あー、制服を新しく買わないと…。

服の袖を手が隠れるくらい引っ張ったソラは、それで口を抑えていた。


咳き込む。


共に吐き出されるのは自らの血。
ポタポタと濡れた指先から落ち、ソラはそれを苛立ちながら眺めていた。



(夜、殺しに言ってないからな…。やばいかも…。死んだらどうしよう。魔女を殺せないまま死ぬのは嫌だなぁ)



せめてもう一度だけ、死ぬ前には島に戻りたい



(ああダメダメ!死ぬ気になっちゃダメだ。死ぬ覚悟はしてるけど、それじゃあダメ!!)



ソラは再び血を吐いた。
下を向いていた顔を持ち上げて辺りを盗み見る。

場所は恐らく視聴覚室。ざっと見た感じ、人は全員白衣を着用していて左腕に腕章が着いている。

ソラは人数をそっと数えた。



(1、2……―――5人か。僕は銃二丁と短剣一本を持っているけど、この状態で殺れるかな…)



彼らは完全に油断をしている。
ソラは口に溜まっている血を飲み込み、目を閉じた。


体はダルい。
いつもより重い。
頭はクラクラしていて上手く立てる自信がない。
力も上手く入らない。


ソラがそっと目を開ける。
やれる?
やれるよ。いつもと同じだと思えばいい。

相手との距離を目ではかり、ソラの両手は銃へのびて――――掴んだ。



やはりというべきか、相手は気付いていない。

銃の安全装置をはずして、人差し指で引き金をなぞった。



(僕を連れてきた目的は知らないけど、死んでよね!!)



一番近いひとから一気に二人撃つ。

聞き慣れた乾いた音が室内に響き渡った。
遅れて二つの倒れる音。
一番遠くに居た人が驚いてソラを振り返る。

その時にはソラは壁に背を預けて立ち上がっていた。続けてまた二人分撃ち、バタ、バタと倒れた音。



(あと一人……!)



銃口を標的に向けた。
引き金に触れ、撃とうと力を込めた。

ぼとり

その音はソラの足下からだった。そして左足と右手に痛みが勢いよく入った。

ソラが驚いて足下をみると、そこには握っていたはずの銃。
続けて右手をみるとそこには斬られた跡が。



「暴れるな、"呪い"」

「……風、属性の…魔術師…。あれ?その腕章……。大地の組織?」

「何を今更…。おとなしく其所に座れ。」

「ものすごく屈辱…」



銃が落ちた衝撃で発砲したのだろう。左足は撃ち抜かれていた。
壁につけた背をズルズルと擦ってペタリと座った。

一人だけ残った白衣の男は短く何か呟いた。するとソラの足下に落ちた銃と左手に握っていた銃が男の所へ浮いて行ってしまった。



「………」

「これは回収しますね。こんな物騒な物を持ち歩くなんて、この学園はおかしい」

「それは悪かったね」



浮いたのはまた風属性の魔術によるものだ。

ソラは無言で睨み付けていた。男の言葉に返事をしたのはソラではない。



「38人殺ってゴールか。そこに4人倒れてるから42人死んじゃった、ってことで。
あ、ところでオニーサンは何してるの?」



男が背を向けている出入口から現れた大鎌を握る青年は子供の様な笑みを浮かべながら侵入してきた。