警備
「ルイトに正体がバレるのも時間の問題かもしれない。どうすれば…」
『殺す?』
独り言を呟きながら、ソラが教室棟へ繋がる渡り廊下を歩いていた時だ。
つい最近ソラを苦しめた自称"呪い"が現れたのは。いや、性格には声が頭の中に響いているだけであって現れているわけではない。
一瞬驚いたソラはすぐに仕事をするときと同じ表情にした。
「さあね」
『あなたは、人を殺すことが嫌?』
「………ところでさぁ、今までずっと思ってたんだけど君って」
ソラは歩く方向を渡り廊下のわきに変えた。向かう先は自動販売機。
先程、ルイトと居たとき緊張のあまり喉が乾いてしまったのだ。 自分の過去を知ってしまうと、自分に対する態度が変わってしまうのではないのか、と恐れている。
「……ラリス、でしょ。僕の幼馴染み。」
『な、にを言うかと思えば…。』
「幼馴染みの声くらい覚えてるよ。間違えるわけないじゃん」
『あ、ありえないわ。あなたと会話すると頭が痛くなる。』
ラリスの声は明らかに動揺が混じっていた。
ソラは聞きながら財布から必要な貨幣を取り出して自動販売機に入れる。
『質問するわ。今、あなたの友達がいるでしょう?「殺せ」とあなたのボスに言われれば殺せる?』
「うん。」
間をいれずソラは即答した。
ピ、と自動販売機のボタンを押す。炭酸飲料を選んだ。 ガラゴロと足元から音がし、選んだ炭酸飲料が姿を現す。
『正体がバレてしまうのよ?自分から殺さないのはなぜ?誰かに言われないと殺らないのはどうして?』
「そんなの、単純に考えればいいよ」
よいっしょ、と炭酸飲料を手に取り、カチッと開ける。
「止まらなくなるから」
一口飲んで、また教室棟へ歩き出した。
「ほら、コーラとか、振るとあふれるじゃん。それと同じようなものだよ。」
ソラは一度振りかえって、辺りを見たあとにまた飲んだ。
キーンコーンカーンコーン
定番のチャイムが移動を急かす。 ソラはなおものんびりと歩きながら、自称"呪い"――――ラリスと会話をしていた。
背後の足音を気にしながら。
____________学園内とある地下
「………あれ?これ、おかしくないですか?来てくださいワール!!」
「こっちも忙しいんだけど…。何、シドレ」
「ほら、これさっきから繰り返してません?」
「…………あ、本当だ。まさか…。」
炎の組織主要メンバーの数人ほどが集まった地下のとある一室。そこでは町中に設置してある監視カメラから大地の組織のトラックを監視していた。
相変わらず渋滞で、まだ中央区にいる。
しかしシドレと呼ばれたまだ未成年であろう少女は、持ち前の観察力でわずかな異常に気づく。 ワールと呼ばれた少年はシドレの元へいき、シドレが反応した理由に気付くとすぐに小型の無線機を手にとった。
サラマンダー、ツバサの補佐二名の内一人に無線機で知らせる。
「監視カメラが壊れた!!あいつらの魔術だと思う。さっきから同じシーンが何度も繰り返し再生されてる!」
『……ふーん。おいゴミ屑ー』
そこで一度回線を切られる。
ちなみに今回線を繋いだのはサクラ。 シャトナと同級生で、無口で毒舌。上司であるツバサの呼び名は「カス」「屑」「クソ」「じじい」と酷いものだ。
まぁ、ボスであるツバサを尊敬しているのは組織内でも少ないが。
ツバサは実力者であり、世に名が知れわたるほどではあるが、接触すると失望する。 組織外なら尊敬している人の数は計り知れないだろう。
暫くすると回線がまた繋がった。
『奴から命令だ。シドレとワールは監視室をミントとヒョウに任せて、キエラと合流してから現地に向かえ。以上。』
とだけ伝えられた。ちなみに、これはサクラではなくもう一人の補佐であるリカの声だ。
「了解」
ワールは回線を切り、さっさと出発をシドレに促した。
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