混乱乱乱
 


____________食堂



「やっと来たか。遅かったが…何かあったのか?」


食堂でジンたちがシングとミルミを見付けた。

シングの第一声はそれだった。
ジンが「ちょっと自動販売機が壊れてて」と目線を泳がせながらいう。
嘘がバレバレだ。

ミルミは取り合えず「そうですか」とだけ言った。



「そういえばルイトとソラがいませんが…」



レイカにミルミが問い掛ける。
レイカが素直に「ツバサと話をしてるの」と言った。ところが、言い終わるとほぼ同時にジンがレイカの頭を叩く。



「バッカかてめぇ。シングたちはツバサのこと知らねーよ。言ってどうするんだよアホ。」

「あ、う、ごめんなさい…」

「ああレイカ。謝らなくてもいい。」

「そうです。ツバサの事は私たちも知っていますし。」



え、あいつそんなに有名人なのかよ?

わ、わかんない…。
あ、けど有名人なのかもしれない!四大組織の偉い人だし。

まじで?



「ちょっと仕事を依頼したことがあるってだけの関係だ。だからそんなに考え込むな。」



苦笑を浮かべながらシングは手元にある水を飲んだ。
















____________談話室



冷房が利く教室の三つ分の広さがある談話室。その隅にある席にソラ、ルイト、ツバサが座っていた。



「空腹だろうけど、ごめんね」

「おーなーかーすーいーたー」

「ソラ、飴。」

「やったぁありがとう鬼嫁!!」

「まだそのネタ使うかっ!!」



ルイトはまだ続きを言いたかったが、それを堪えて前のめりになったからだを戻す。

そこでソラはテーブルに上半身を預け、うつ伏せのようになった。
枕のかわりに、頭とテーブルの間には腕を挟む。
話を聞く気は全くない。



「おい、ソラちゃんと……」「ああ、いいよルイト。放っといて。俺はルイトと話をしにきたの。その次はソラって順で。」

「わ、わかった」



空気と化したソラを無視してルイトはツバサの話に集中しだした。

ソラは耳をたてて彼らがどんな話をするのか、聞いていないフリをして聞くことにした。

ツバサにはバレているだろう。
ツバサも知っていながら、わざわざソラの前で話をする辺り、性格の黒い部分が見え隠れする。



「ソラが可哀想だから率直にいうよ。」

「……わかった」

「まず、その記憶の場所はブルネー島。地図をみれば分かるだろうけど、赤道の近くにある小さな島。」

「あ、そのブルネー島の事、この前ニュースでやってた。」

「何て?」

「沈みかけているって…。」



ソラは呼吸を一瞬忘れた。発する言葉も、胸の中で呟く言葉もみつからない。



「その島は独自の信仰にあつい島でね。もともと高位魔術師をよく輩出する島って有名立ったんだよ。
とくにレランス家。」

「レ、ラ…ンス」

「そう。で、その平和な島に歴史に名を残す程の大きな事件が起こる。」

「事件?」

「情報はここまで。あとは自分で調べてー。図書館に行けば大体のことはわかるんじゃない?」



代償はあとで請求書送るから、とまだ未成年のルイトに言い、ツバサはソラに視線を向けた。



「図書館……。俺、行ってくる。」

「おや、ご飯食べるんじゃないの?」

「断る。記憶が戻るかもしれないんだ。」



ガタッと椅子を転がして立ち上がり、ルイトは倒れた椅子など目に入らず、そねまま駆け出して行った。

ツバサは椅子を行儀悪く足で立たせ、元の位置に戻す。

そして寝ているフリをしているソラのからだを揺すった。



「………何、ツバサ」

「君に説教に似た平和的なお話をするから起きて」

「えー」



ブツブツ文句を言いつつソラは起き上がり、話をきく体勢になった。
ツバサはそれを見ながらソラに疑問を投げ掛けた。



「今日、どうしてレイカは泣いたと思う?」

「………わからない」

「ソラ、君はそれでよく殺し……暗殺をやっていられるよね。答えはソラの殺気だよ」

「殺気?殺気なんて…」

「身に覚えがないのか。沈青事件について過剰反応しすぎ。いくら復讐の絡みだからって、それはいただけない。」

「僕は、あの魔女を一秒でも早く殺したい!!この左腕に刻まれた"呪い"から開放されたい!復讐したいッ!」



血がにじむほど、ソラは両手を握り締めた。
表情は下を向いていてわからない。が、ツバサは容易に想像することができてため息を吐いた。



(この分ではソラを落ち着かせるのに夕食の時間が削られるな…。)