むかしむかしの話
 




今と比べて、背が低く声変わりを終えていない幼いルイトがただ、立っていた。


ルイトの足下にあるのは、死体。



ルイトの足下だけに留まらず、至るところにソレらは散らばっていた。



年齢層はバラバラ。



シワが埋め込まれた老人から、生まれたばかりの赤子まで。



老若男女、みんなみんな死んでいた。



死んだ原因は、当時のルイトにははっきりわからない。



何者かに斬殺されただろう、という程度だけ。






「……こ、れは…どういう…」






ルイト自信でも聞こえるか否かの小さな小さな声。



自分を含めた、死体の周りには炎が嘲笑うように踊っていた。



炎は民家、福祉施設、学校を次々に踏み潰し、火の粉は美しく舞う。



それらは恐怖の塊でしかない。



ルイトは逃げよう、逃げよう、と焦るが恐怖で体がいうことを聞かない。



真っ黒だった空は紅く染められる。






「あ、殺してない人、いたっ」






炎と同じような踊る声はルイトの左側からした。



姿を現したのは、死体と同じ黒髪を胸まで伸ばした少女。



ルイトと同い年か、年下だ。



彼女の手に握られているのは赤黒い刀身の刀―――――



否。



血によって赤が混じったように見えるが、あれは黒だ。



それも、かなり濁った。



彼女の服は血で染まり、それは彼女の肌も同じだ。



ルイトはから滝のような冷や汗が出た。



本能で、すべてを直感する。






(殺される…)






彼女はゆっくりとした足取りでルイトに近づいた。



そして一言つげる。






「お姉ちゃん、しらない?」


「………ッ」






知ってるわけないよねー。



浅いため息をつきながら、彼女は握る刀を見下ろした。






「あなた、島の人じゃないよね?
ってことはあたしの知り合いでも
なんでもない赤の他人なんだよね
おめでとう。名前もわからない君
あたしに君を殺す理由がないんだ
君は死なないの。どう?嬉しい?
あ、それとも悲しい?沢山死んで
ねえ、君は今なにを思ってるの?
あたしに対する憎悪?嫌悪?ね、
バカなあたしにも解るように教え」






ガラガラ
  ガラ ガラ
    ガ ラガ ラ
      ガラ ガ ラ



建物が崩れる。


その騒音に遮られ、彼女の言葉は最後までルイトに届かなかった。