クラスメイト
 



「そういえば夕食は?」



レイカがふとソラの方へ顔を向けた。ソラの気の抜けた声がして、すぐに「まだ」と短く答えた。



「私たちもまだだから、一緒に食べない?」

「一緒に?うん、いいよ!」



レイカの優しい笑みに、ぱぁっと顔を明るくしたソラは財布を取りにベッドから降りた。
シングが財布をとったソラをみながら部屋の出口へ向かった。



「俺とミルミは先に食堂へ行って席を確保してくるから、ソラとレイカはルイトとジンを呼んできて貰えるか?」

「うん。分かった、いいよ」



レイカが右手で手を振る。

財布を一旦テーブルの上に置いたソラは、使わない勉強机に置いてある銃を二丁手にした。
その銃は左右のホルダーに入っていた。

そのホルダーを腰に巻き付けたソラは「よしっ」と言って再び財布を握った。



「ジンの部屋へ、いざ出陣!」

「お、おー……?」



控えめに、握った拳を天井につきだしたレイカとは違い、自信満々にソラは前へ前進した。

廊下にでて鍵を閉め、ソラはくるりと体の向きを変えた。
目線はジンの部屋の扉。



「ねぇレイカ。」

「えっ、何?」

「どうせなら静かにジンの部屋に入って二人を驚かせようよ」

「そ…そんなことしたらジンとルイトに怒られちゃうよ?」

「三大欲求には勝てないでしょ?」

「さ、三大欲求!?ソラ、まだ小さいのに三大欲求知ってるの?」

「僕は小さくない!!」



風船の如く頬を膨らませたソラは、握った拳から人差し指だけをつきだした。
その手をレイカの顔の前に持っていく。

が、レイカの方が身長は上回るので実際のところ、口の位置までしか届かない。



「僕だって三大欲求くらいわかるし、体験してるんだからね!?」

「たっ、たたた、体験まで!?」

「うん!」

「ちなみに、三大欲求って何?」

「1、食欲!!」

「うん、そうだね。」

「2、睡眠欲!!」

「最後のは…」

「3、イタズラ欲!!」

「イタズラ……欲?」

「そうだよ!!」



ふふん、どうだ!!僕の知識の量は!

と言いたげに胸を張るソラをみて、レイカは苦笑いをした。
最後のは違うよ。
そう伝えたいが、それが出来ないのがレイカの性分だ。

ちなみに正解は性欲だ。恋をしたいのは誰でもそうであろう。
目の前にいるソラにはそんな気はまったく見られないが。



「レイカ、ドジしちゃだめだからね!?」

「う、うん!頑張るね」



レイカの頭の大半を占めているのはジンに対する恐怖だ。
ソラはレイカに「僕がレイカを守るから!!」と自身の胸を叩いて見せた。

レイカはソラが可愛く見えたので微笑んで、「よろしくね」と言った。


ソラがジンの部屋に進入しようとしたとき「オイ」と急に背後から話し掛けられ、肩が跳ねた。

その声は普段から聞き慣れている声で、ソラはおそるおそる振り向いた。



「……っおま、え…は……!!」

「何してんの?レイカまで…。」

「あ、えっと…」



ソラの大きなリアクションを華麗に無視したのは、レオだ。

肩につきそうでつかない金髪と、碧眼が目に入りやすい。
レオの金髪碧眼はツバサとは違った色をしている。特に瞳。
ツバサは紫が混じった冷たい色だ。それと違い、レオは純粋にあおい。

レオの容姿は、一見美少年に近い。
ソラが「よっ美少年!」とからかうといきなり殴ってくる危ない人だ。

――――レオは、ソラと同じ水の組織に所属している少年で、ソラと同じクラス。
年齢はルイトたちと同じで、二つソラより上だ。
もっとも、ソラの誕生日がもうすぐなので一つ差になるのだが。

ソラがそれまで生きていれば、だが。



「レオのこの時間ってさー、」

「今から行くんだよ。」



目を少し鋭くさせたソラがレオを見る。
レオはひらりと右手をふって一度目を閉じる。



「で、ソラは何をしてんの?」

「今からイタズラ欲求を満たすの!!」

「レイカ、ソラは何をしてんの?」

「僕無視!?」

「えっと、ジンたちを夕食に呼ぼうかなって…」

「ああ、そう。引き止めて悪かった。じゃあな」

「また明日ね」

「まったねー美少年ーっ!」



シュッ

ちょうどソラの首を狙って手の大きさほどの針が飛んできた。
ソラは紙一重でよけ、その針は壁に刺さった。



「ッチ…」

「怒んないでよレオー。またねー」



ソラがブンブンとおおきく手を振った。