青年と少女
 



太陽が傾き、夕食が近付いている事を感じさせた。
ソラは昼食をとる時も今も、ツバサと一緒であった。
正確にいえばツバサが一方的にソラと居るだけだ。

そろそろルイトたちが帰ってくるなぁ、と自室から窓をぼんやり眺めていたソラ。
ツバサは部屋の隅に設置されているパソコンをいじっていた。

ソラが暇だと言ってツバサに近付き、何をしているのかと聞いた。



「乗っ取り。」

「え?………何を…」

「監視カメラを。俺の補佐が仕事しろって言って来るからね。」



あー怖い怖い、とツバサは笑った。
しかしソラは硬直。



(……えっと…。つまりツバサはハッカー?ハッカーなの?犯罪じゃん!!捕まっちゃうじゃん!!
てかこの場合僕のパソコンだから僕が捕まるの!?
嫌だ!!僕何も悪いことしてな……、してるけどさぁ!!)



そんなソラの心情を知らないツバサは画面を見る。
そこにあるいつもと角度が違った学園には生徒がうじゃうじゃ居た。

部活をする人、寮に帰る人、放課後の時間を楽しく過ごす人。

カチカチとツバサがマウスをクリックすると次々に画面が切り替わる。



「あ、これ倉庫で見たソラのお友だちじゃん?」

「え、あ、ジン!ルイトもいる!!」

「こっちに来てるみたいだけど。」

「うぇっ。鬼嫁がくる…。」



ツバサはパソコンの電源をきって窓へ向かった。
何をするのかと目で追うと、ツバサは窓を開けて足を掛けた。



「じゃあ補佐も来るし、俺行くわ。じゃあね」



言い残してツバサは窓から飛び降りた。
ソラはしばらくポカンとして、はっと我にかえった。



「ここ五階ですよね!?」



ソラはすぐに窓へ駆け寄り、下をみた。

ツバサがちょうど着地をしたところだったのか、金髪とそれに混じった一線の黒髪がふわりと舞っていた。その着地をした格好はどうみても右足がわずかに浮いていて片足で着地したようだった。しかしそれはとても綺麗で、慣れているようにも見える。



「……っ…っ……!」



口をパクパク開閉させながらソラは上からツバサを見る。
ツバサはその視線に気付き、上を見た。そして視線が合うと微笑んで右手を小さく振る。



"またね、ソラ"



口パクではあるが、確かにそう言った。ソラは「あ、うん。またね」と返事をする。

ツバサがその場から立ち去ろうとしたとき、ツバサに向かって黒いガラスの破片のような物が飛んできた。

その破片はいくつもあり、確実にツバサを狙っている。

ツバサがそれに気付き、軽い身のこなしで後方へ跳んで避けた。
一瞬送れて破片はツバサの立っていた場所に刺さる。

ソラは何事かと破片が飛んできた方向を目でなぞる。

そこにいたのは黒い髪を黒いリボンでツインテールにしている幼い少女だった。彼女からして左だけに薔薇を髪に飾っている。着ている服はドレスで、こちらの色も黒に近い紫。
いってしまえば全身が黒い幼い少女だ。

ツバサはその少女を見て明らかに嫌そうな顔をした。

少女はソラにも聞こえるような声で「仕事をしろ!!いい加減に私たちの身にもなれ!!」と怒声をかました。

ツバサはなにか一言言って逃げるようにそこから立ち去った。

少女もツバサを追って行ってしまった。



「………なんか、愉快だなぁー」



だらーんと両腕を窓の外へ投げ出してソラは呟く。

恐らく彼女はツバサの二人の補佐のうち一人だろう。

男子寮の五階まで聞こえるほど学園の放課後は賑わう。
ソラは混じる話し声を聞きながらルイトはいつ来るのかな、と口ずさんでいた。