××の部屋にて
 


ぐちぐちと文句を言っていた白華であったが、フラーウスが言葉巧みに宥めると渋々文句を言うのを止めた。仕方がなく右都から渡された女性向けの服を着る。フラーウス、右都よりも身長が低いフラーウスはそれでさえもサイズが合わなかった。どうやらその服は右都のもののようで、普段は身長の低さをあまり気にしていない白華も今回ばかりはショックを受けたようだった。
しかし時が進めば比例して――夕方にあった出来事で心身共に疲れたこともあり――眠気も襲い、自然と寝ることになった。右都は自分の部屋で、白華は右都の母親の部屋で、フラーウスは狭いソファの上で寝ることになった。退院が近かったとはいえ、フラーウスの中では白華はまだ患者のうちに入っていた。

暫くして寝静まったのか、辺りは水を打ったように静寂が支配した。
ゆっくりとフラーウスは起き上がり、右都の部屋の前に立った。小さくノックすると、内側からドアが開いて右都が迎えた。



「どうぞ」

「ありがとう」

「適当に座ってください。飲み物いる?」

「お構い無く」



ドアノブを持ったままだった右都も、静かに閉めた。遠慮がちに座るフラーウスにくすりと笑う。
フラーウスは夕食とときとは違い、出会った当初の右都であることにホッとしたが、なにかモヤモヤとする。ふと机の上に「左右」と名前が書かれた日記を見つけたのだが、遮るように右都が座ってしまった。

パッと部屋を見渡してもなにか違和感が生まれてモヤモヤとする。
右都の部屋はレースがふんだんに使用され、白とピンクに統一されたいかにも女の子らしい部屋とは違った。生活必需品と、北区の人気がある雑貨屋の雑貨が飾られており、二、三体のぬいぐるみもある。女の子らしさと真っ白な壁と天井が殺風景な印象が残る部屋だ。

ちいさなテーブルの前に座ったフラーウスの正面に右都が腰を下ろした。最初に両親のことがあったが、フラーウスが「気にしていないよ」と言うと少し困った様子で本題に話題が移された。



「まず、フラーウスたちはこれからどうするんですか? 白華はともかく、まだフラーウスは一般人に戻れますよ」

「はじめから僕は一般人じゃないよ。でも裏社会にいるつもりもない……。中途半端で、まだ悩んでる。でも白華は守るし、右都も守りたい。情報屋だって知られてないにしても、右都はもうマフィアにマークされているでしょ?」

「ありがたい話ではありますけど、危険です。俺はいくらでも奴等を欺ける自信はある。それに、具体的にどうやって私たちを守るの?」

「まずはどうして白華を狙ったのか知りたい。白華は隻腕の一般人だよ。人格だって、どこにでもいそうな子。どうして狙うのかわからないから……」

「……。後悔しますよ、そんな優しさ。それに中途半端な立ち位置では」

「二人を守ることに変わりはないよ」

「そう……」



月よりもフラーウスの瞳は綺麗だった。美しかった。右都は二つの色が混ざってはっきりしていない瞳を伏し目がちにそらす。そらしたことをフラーウスに悟られないよう、その目は机の上にあるノートパソコンに向けられた。画面をフラーウスに向ける。



「フラーウスがそういう返事をするのはだいたい予想できていたよ。なんたって世話好きですからね。これ見て」

「……南区の、レストラン? しかも高級レストランじゃないかな」

「物知りで助かります。僕はフラーウスのサポートをしましょう。じっと守られているのは嫌だからね」

「これは?」

「奪還屋は知ってる?」

「ルベルでしょ。珍しい赤髪の」

「彼と、ひとつ仕事をしていただきたいのです。明日ですけれど。ここに北区の女帝と南区の皇帝がプライベートで食事をします。奪還屋には女帝が持っている私の筆箱を返していただきたいのです。不意に落とした私も悪いんだけど」

「急だね……。しかも、それ泥棒じゃん。そもそも持ち歩いてるの? 女帝が」

「僕は情報屋だよ」

「……わかった、やるよ。喜んでやらせていただきますよ」