一段落
 


右都の不審な行動はいくつも見られた。元気で幼さが残る普通の少女にしか見えないからだ。あの余裕のある態度に全てを見透かしたような不思議な眼、隙のない行動をする右都と現在の右都は何かが違っていた。

そう、雰囲気がまるで別人なのだ。



「ふー、ごちそうさま」

「あっははは、美味しかったよ! まるでおばあちゃんみたい! ごちそうさまー」

「ごちそうさま、お粗末さま。食器の片付けは僕がやるから右都はゴミを片付けて。白華はテーブル拭いて」



隻腕の白華でもできることを頼んだフラーウスであったが、同い年の少女にかっこつけたいのか白華は右都の分もやる、と張り切った。右都は笑い転げる。フラーウスには右都の笑うツボが理解できずに苦笑した。
フラーウスが食器を洗い終わり、ふと携帯電話を開いてみた。メールが一通受信されている。右都からだ。ちょうど右都が着替えているような時間帯に受信されている。フラーウスは迷いもなくメールの内容を読んだ。

件名は『疲れたでしょう』だ。
『本日はありがとうございました。助けていただいた上に怪我の手当てまで。本当にありがとうございます。そして両親のこと……、お悔やみ申し上げます。なにもできずに申し訳ありません。
今夜、フラーウスと二人でお話をしたいです。白華が眠ってから僕の部屋までお願いします』

いつの間にメールアドレスが知られていたのか。しかし相手は情報屋。一般人のメールアドレスを掴むなど朝飯前だということだろう。なかなか有力な情報屋だ。フラーウスは快諾の旨を伝えるメールを送信。
リビングを振り返ると、右都がせっせと服をテーブルの上に積んでいた。



「右都、どうしたの?」

「フラーウスお疲れさま。二人とも行く場所がないんでしょ? 泊まっていきなよ!」

「え?」

「これは服ね。そのままじゃいられないでしょ。着替えてね。足りなかったら近くの百貨店で買ってきて。自費で!」

「自費なんだ……、じゃなくて、いいの?」

「あっはははは、出ていけって言うほど私は薄情じゃないよ〜。中央区にはマフィアいないらしいし、安心して!」

「仕事屋はウロウロしてるけどね。でもありがとう。右都」

「……ううん。気にしないで」



へらりと笑って、右都は「お風呂の準備するね」とリビングから居なくなった。



「フラーウス、さっきオレ、右都の親について聞いたんだ。ほら、今ここに居ないだろ?」

「……」

「親父さんとお袋さんが離婚して、右都はお袋さんについていったんだって。でもお袋さんは病気で入院してるから独り暮らしらしい。入院したのもつい数ヵ月前なんだって……。寂しいのかな、あいつ」

「……そうだね。そうかもしれない」



いくらなんでも男二人と同じ屋根の下で一晩越そう、などとはいくら中学生の少女でも危ない。信用してくれているのならフラーウスも嬉しいのだが、今日会ったばかりの高校生など、まだよく知りもしていない。手を出すつもりはないのだが、フラーウスは右都が心配になる。



「フラーウス、これからどうするんだ? 家に帰るのか?」

「荷物を取りに。あそこに住むかどうかは、まだ混乱していてわからない。少なくとも彼らの狙いは白華。僕も右都も無関係ではなくなったわけだけど、あいつらも昼間から喧嘩を売りほど頭は悪くない。取り合えず明日は学校を休んで、警察に連絡しようと思う」

「……そうか」



白華はテーブルに積まれた衣服をみて「あれ?」と裏返った声をあげた。それからすぐ、眉間にシワを生み出す。



「右都おおおおお! どういうことだこれ!」



大声を出しながら白華は風呂場まで走っていった。フラーウスはどうしたのだろう、と白華がついさきほどまで見ていた彼に用意された衣服をみる。



「ああ……、これ全部女物だね……」