南区と北区の方々
 



それは一時間も前の話だ。



「これだから嫌なんだって」

「まあまあ」



ノウは歩きながら文句を言っていた。ッチ、と行儀悪く舌打ちをしながら歩く彼女を宥めるのは飯田。



「うちのボスは勘違いしてんだよ。私は諜報員。なのに、なぁーんで殺しを命令されなくちゃいけないんだっての! 私の職業わかってんのかよ」

「マフィアだろ」

「うん……そうだけどお……」



中央区の外れにある小道を南区マフィアのノウと北区マフィアの飯田がとある一軒屋を目指して歩いていた。その理由は単純。ある会話を一般人に聞かれた。証拠隠滅のためにその一般人を抹殺しに行くのだ。
南区と北区のマフィアが協力しているのは同盟関係に近いからだ。実際は同盟関係ではないのだが、南区ボスと北区の次期ボスの仲が大変良いのが理由だ。

目的の家に到着したノウは飯田に合図をしてベルを鳴らした。少ししてから引き戸が開く。



「はいはい、どなたですか?」

「はじめまして、南区と北区のマフィアです」

「……は、はぁ……」



人当たりの良さそうな中年の優男が姿を表した。ノウは表向きの表情になる。闇医者だと聞いていたため、ノウはもっと胡散臭げな顔をしていると思ったが、予想外だった。



「怪我人ですか?」

「いいえ」

「? ……では家内を呼んで参りましょうか」

「ああ、待ってください。聞きたいことがあります」

「どうぞ、おっしゃってください」

「白華という少年はいますか?」

「……ご兄弟でしょうか?」

「聞いてるのはこっちですよ」

「たしかに居ますが、ッ!」



飯田は拳銃の引き金を引いた。腹部を撃たれた闇医者の男はその場で倒れた。



「ゴフ! ぎ、君たち……っ」

「飯田、もう一発お願い」

「言われなくても」



血を大量に流しながら喋れなくなった男をそのままにして靴を脱ぐことなく二人は家の中へお構い無しに入っていった。



「患者が収容されてんのはどこか調べたのか?」

「当たり前だ。以前ここに世話になった奴から仕入れた情報だけどねぇ」

「で、どこに?」

「入り口から近いここらへんは診療室ばかりだね。簡単な手術もここら辺でやるらしい。あと息子の部屋だとか、家族が使う部屋がいくつか。んで、この長い廊下を歩いていくと目的地さ」

「ふうん、なるほどな」



ノウは飯田に説明して、ずんずんと先を歩いていってしまった。飯田は拳銃を持ってあとにつく。

そうして少し歩くと、さきほど歩いていった玄関の近くから物音がした。様子を見に行くために飯田は戻り、いったん二人は別れることにした。ノウはベットが二つある部屋を順に見ていった。白華という少年はいない。片手に拳銃を持ち、なかなか見つからないことにイライラしていた矢先、回収屋に遭遇した。それから回収屋がノウの事情を知ると戦闘になった。銃声がひとつ。早撃ちが得意であるノウが彼女の足を撃ち抜いたのだ。



「白華くんはどこにいるのか……。教えてよ、奥さーん?」

「だれが教えるものですか!」



舌打ちをし、回収屋を蹴る。その拍子で倒れた回収屋の手を足で踏み潰しながらノウは尋問を始めた。しかしなにをしても回収屋はこたえない。しびれを切らせて撃ち殺してしまった。



「あーあ、酷い」

「……お前、いつから居たの?」

「結構前? というか夢中だったもんな、ノウ」

「見てるだけなら白華を探してよ。効率が悪い」

「僕は彼氷に『ノウの言うことを聞きなさい』とは言われてないし、そもそもこんなの殺し屋に頼んどけばいいんだって」

「ったく」



はあああ、とため息をついてノウはその場を後にした。しようとした。しかし突然ドアが開いて少年と少女は姿を現したのだ。



「……ねえ、この家、息子いたの?」

「いるって言ったじゃん。私」

「僕は彼氷の言葉以外聞かないから」