Do not meet ...
サブラージは立ち止まっていた。それは目の前に立つ人間に行く手を遮られたからである。
その人間は、帽子を深く被っており、口をマスクで覆っていた。目にはサングラスをかけていて、服装は黒い。典型的な不審者の格好をしている。身長はサブラージよりも高い。サブラージの目の位置が丁度相手の首あたりになる。それくらいの身長差。
サブラージとその隣にいる彼女の親友が登校しているときにこの人間が現れた。サブラージの親友はその人間に怯えている様で、サブラージの手を強く握った。
「……何ですか?」
仕事をするときの目付きになったサブラージは、怯えたりせず堂々としていた。 人間はしばらく無言でいたが、ポケットから小さなメモ用紙を取り出してサブラージに受け取るよう、無言のまま促す。
露骨に警戒をしながらサブラージは折り畳まれたそれを受け取った。人間はそれだけ渡してその場を立ち去った。
「い、今の人、怖かった……。サブラージは怖くなかったの?」
「怖くは、なかったけど…。なんか、変な感じ」
このサブラージの親友の名は左都。 左都はサブラージが裏世界の住人だということは知らない。そもそも、裏世界を知らない。そんな平凡な世界に育った彼女はどんな状況でも楽しむ傾向がある。 それはそれは、狂喜に満ちた笑みで笑いながら。
「怖かったけど、なんか愉しかった!ね、その紙になんて書いてあるの?」
先ほどの怯え様は嘘かのように笑顔でいる左都はサブラージが持つ紙を気にした。
促されてサブラージは「あ、そうだね」と歩き出しながら紙を開いた。左都には見えない角度で。左都は拗ねたが、サブラージはそれを空に飛ぶ鳥のように無視をした。
紙は広げると正方形の折り紙のような大きさになった。その中央には
(これ、は……)
サブラージは僅かに目を見開いた。
そこには赤ペンで『Do not meet a Recapture Monger tonight.』と記されていた。英文であるため、サブラージはすぐに意味を理解した。
「ねえ、何が書いてあるの?……サブラージ、聞いてる?」
「んー。左都には秘密」
「わ、なにそれー!」
左都は笑いながらサブラージから紙を奪おうとじゃれていた。特に、運動神経は良いわけではない、平均台の左都ではサブラージから紙を奪うことはできず、最終的には諦める他なかった。
サブラージは考えていた。紙に書かれていた『Do not meet a Recapture Monger tonight.』……。直訳ならば『今夜、奪還屋に会わないでください。』となる。 仕事の用でなければ意図的に奪還屋に会うことはまずない。だが、今夜は奪還屋に会わなければならない仕事が入っている。 それは依頼者と回収屋でしか知ることは不可能だ。
(どうして第三者が……。そもそもあれは何?一体誰なんだろう)
顔の認識どころか、性別すら分からなかった。 厚着をする季節でもないのに、肌を見せないようにするほど全身を衣類で包んでいた。服は、ふくらはぎまで届く黒いコートがメインで、体格も誤魔化した格好だ。
(マフィアか、組織の奴らか。……それとも)
首を横に降って頭を切り換えた。三番目はあり得ない、と一人で結論を見出だした。
隣に歩く左都は紙の事などすっかり忘れて昨夜見た夢について楽しそうに話していた。話題は昨夜見た夢、ではあるが話している内容はグロい。
「それでそいつの頭が割れて脳みそが漏れてきてさ!スプーンで脳みそをすくってみたらその柔らかさがプリンレベルなの!!腹筋が筋肉痛になっての!ぎゃはははっ」
「……うぇ」
サブラージが想像して、少し気持ち悪くなった。それでも左都は楽しそうに話す。まるで遊園地で遊んできたことを友人に話すような表情で。
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