PTメンバー
 


「僕は、情報屋ですよ」



右都は苦笑いをしていた。「内緒だよ」と人差し指を唇の前で立てる。フラーウスは右都に言われた言葉を頭の中で整理していた。

防御壁都市は一般人とは違い、仕事屋をして生活の糧にしている人が少なからず存在する。北区、南区、西区、東区にマフィアが存在しする裏社会というものがあるのだから仕事屋はあっても自然というものだ。そして、この狭い防御壁都市にいる仕事屋は基本的に各分野に一人ずつしか存在しない。闇医者など、一人の手には負えないものはともかく。奪還屋、殺し屋、運び屋、尋問屋、伝言屋、回収屋、始末屋、代理屋……。同じ仕事に就いているものが二人もいれば殺し合いになってしまう。腕に自信があるのならともかく、死に急ぐような様はしない彼らは誰かと同じ仕事には就かない。
その中で、情報屋はフラーウスがまだ小学生の時に空席になった。家も身寄りもない三人の少年に殺されたのだと、母親と父親が話していたことを思い出す。しばらく空席だと思いきや、情報屋になろうとする者は意外に何人かいたのだが、どれもこれも暗殺されて、今では情報屋というのが呪われた職業ではないかとまで云われているほどだ。もともと、情報屋や闇医者という第三者の中立した職業は命を狙われやすい。恨まれやすい立場であるため、立て続けに情報屋が殺されていても他の仕事屋はとくに騒ぎ立てたりはしなかった。

現在、その情報屋が目の前の少女だというのか。フラーウスは頭が痛くなった。



「嘘でしょ……」

「まだ創業して数ヵ月ですけどね」

「右都、君は僕より年下でしょ? まだ学生でしょ?」

「うん。中学生」

「情報屋がどれだけ危険か解ってるの?」

「もちろん。でも親が親で、食べていくにはこれしかないかなって」

「……」

「情報屋として、この家であったことが気になるし。私として、フラーウスのサポーターくらいにはなると思うよ? ほら、なんでも知ってるから!」

「……でも」

「フラーウスのお父さんが殺されて、フラーウスに会って、俺が情報屋で……。今さら帰るなんてできないし。……その、出会って早々なんだけど、私……フラーウスが心配だし……。年下に心配されたくないかもしれないけど、個人的には少なからず……」



音量を抑えて右都は「あはは……」とだけ笑って落ち着きのない心をどうにかして誤魔化そうとしていた。フラーウスは彼女の目を見る。誤魔化そうと必死になる瞳には確かに、強い意志がこもっているような気がした。



「右都の気持ちは解ったけれど、自分の身を守れないと駄目だよ。だから一緒には……」

「ぐ……っ。そりゃフラーウスみたいに得物はないし力もないけど……」

「……はあ……」



口から出る言葉とは全く違い、右都の拳は固く、きつく力を込められていた。相当悔しいのだろう。傷口が開いてガーゼに血が染み込んだ。



「わかった、わかったから。一緒に行こう。だから……手」

「ぁ……」



フラーウスの差し出した手に右都は痛みを隠しながら自らの手を乗せた。血が染み込んでいることなど気が付かなかった右都は少し驚いた表情になった。
ガーゼを換えて、フラーウスは右都に気を付けてよ、気を付けてね、と何度も何度も繰り返した。

息をしない父親を残し、部屋を出た。三人家族には広すぎる家を、フラーウスは右都を引き連れて静かに、ゆっくり進んでいく。
いざという時のために母親から叩き込まれた知識が生かされる。