転機
裏社会を知る者もその世界にいきるものも、この防御壁都市ではほんの一握りだ。その一握りの中に、彼はいた。表にも裏の社会にも暮らす彼――後の情報屋助手は医者になりたいという夢を抱いていた。父は医者であり、闇医者でもある。母は回収屋――この場合はサブラージではない他の人間――だった。
彼の名前はフラーウス。フランとも呼ばれる。防御壁都市内で一番の進学校に通う少年だ。
その日の夕方、フラーウスはいつもと同じく帰路について家を目指して歩いていた。その道中、いつもとは違うものを見つける。落ちていたのだ。倒れていたのだ。そう、人間が。
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「父さん、この子は大丈夫なの!?」
「慌てるな、フラーウス。お前は手当てに必要な物を持ってきなさい。私はその間に治療室へ運ぶ」
「わかった」
道に倒れていたのはまだ中学生の少年だった。彼は全身の右側を大怪我し、血がベットリとこびりついていた。あの時、フラ−ウスが横抱きするとバランスが悪く、血で黒く汚れたそこをみると、やっとその違和感に気が付く。少年には右腕がごっそり存在しなかったのだ。
フラーウスは血相を変えて父の前に少年を連れていき、今に至る。フラーウスを助手にして父は少年の肩を縫い、フラーウスは他の傷を消毒することになった。 いったい、この少年に何があったのか。 しかしそんなことを考える暇もなく。
やることをすべて終わらせたフラーウスと、その父を迎えたのはフランの母だった。フラーウスと父が母のもとへ向かうとき、父はフラーウスの近くでボソ、とひとこと言った。
「あの事は誰にも言っては駄目だ。いいな?」
フラーウスは小さく頷いた。
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