西区の倉庫
 




邸から出たルベルは倉庫へ向かった。

そこにあったのは重そうな重機だ。その重機は各々に人を乗せ土を埋めたり均したり、柵を破壊したりと様々な動きを見せていた。

辺りには騒音が鳴り響き、ルベルの聴覚をおかしくしていた。

ヘルメットを被り、作業服を着た男性たちはそれに慣れている様で、何事もなく仕事に徹していた。



「こんなわかりやすい所に誘拐した娘おいとくか?」



罠の可能性がルベルの頭を過ったが、罠を仕掛ける理由が思い付かず、気にしないで工事現場から少し離れた倉庫へ向かって歩き出した。


この倉庫は「マフィアの武器庫だ」という噂が西区に流れている。実際、なんの倉庫なのか誰もわからない。

ルベルは今回は気が抜けないかもなー、とぼんやり思っていた。


周囲には誰もいない。
工事のために仕事をしている人たちとは場所が離れているため、彼らを気にする必要はない。
ルベルは腰にさしていた短剣を抜き、左手に握りながら音をたてずに慣れた動きで中へ侵入する。
そこは倉庫などではなく、廃墟となった古い工場だった。誇りが機械の上に積もっていて季節外れの雪にも見える。


中は恐怖を与えるほど静まりかえっていて、緊迫感をうみだしてた。

ルベルは素早く物陰に隠れた。
目線の先には複数の男。
それに取り囲まれるようにして幼さが残る少女が倒れていた。

両手足は縛られている。口にはガムテープが貼られている。
最悪なことに、服は着ていない。

ルベルに冷や汗が伝った。まだ少女に生気はある。先行する感情を抑えて、気配を殺す。頭の中でこれからどうしてやろうかと考え、行動に移すことを決意した。

わざと音をたてて別の物陰に移動した。



「誰だっ!?」

「どこから音がした?」

「あっちか?」



物音が響くここでは、音源が特定できない。今の物音で侵入者に気が付いた誘拐犯はバラバラに辺りを見渡す。
ルベルは彼らの数を数えた。



(5人……。得物を持ってやがるな。一気に相手にするにはキツいか)



それぞれ拳銃を握っており、ルベルは短剣を握る力が強くなった。

男たちはさきほどルベルが鳴らした音を気にしていて、会議を開いていた。
どういう話し合いをしたのか、結果は二人が少女の近くに残り、他の三人が工場内を歩いて侵入者をさがすことになっていた。

ルベルにとってこれは好機。

三人はバラバラに動いているため、静かに殺していけばいい。



(銃の構え方がまだ堅い。素人だな)



ルベルは依頼の成功を確信して笑った。

身を隠して、息を殺す。
横を一人の男が通り過ぎた。
うしろからルベルが近づく。
口を抑え、短剣で喉を斬った。
倒れる男を支えて静かに寝かす。

馴れた動きで遂行した。ルベルは男が吐き出した血で右手がぬれるが、構わず次の男に近付く。

同じようにして、また殺した。

その目は、普段のルベルと違い、怒りを宿らせている。あの少女を自分の妹と重ねているのだ。



(あと一人)



過去を引きずったままルベルはもう一人を殺そうと歩み寄った。だが、その男はルベルに気がついていた様で、銃を構えたまま振り返った。



「てめえ、誰だ」

「……奪還屋」



ルベルはいうと男へ直行。間合いを一気に縮めて、相手の心臓を狙い、突く。
男は紙一重でそれをよけ、崩れたバランスをすぐに調えた。

だが戦闘経験の差が歴然としている。

ルベルは短剣を逆手に握り、バランスを調えた男にふり下ろした。それは男の肩に突き刺さり、血を噴き出す。

びちゃびちゃと埃に汚れた床に深紅の液体が降り注ぐ。男はその激痛につい声をあげた。その声に、少女の近くにいた男たちが気づいた。

嫌な予感がする。ルベルは男から銃を奪い取り、男の頭を撃ち抜いて別の所へ隠れるために移動した。




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