奪還依頼
「じゃあ俺仕事だから」
「朝っぱらからご苦労様」
昨夜出会った情報屋の手伝いをしている彼は、ルベルの部屋に泊まることになった。
そして現在、午前7時にルベルは出勤だ。まあ、奪還屋の仕事であるため何かを奪い返しに行くことになる。それはやはり身の危険がある仕事だ。彼は他人事のようにルベルを見送り、そして独り言をつぶやく。
「……さて、僕も仕事しようかな」
ルベルは依頼者の元へ歩いていく道中に、今回の依頼について考えていた。
今回の依頼者は裕福な家の夫妻だ。愛娘が誘拐された、と泣きながらルベルに電話をいれた。治安部隊は動いてくれないようだったので、裏世界に足を踏み入れたんだそうだ。 娘の年齢は14歳。小学生ならまだしも中学生を狙うとなると、彼女の身が危ないかもしれない。
ルベルの横を登校中のたくさんの学生がすれ違う。 その中にはサブラージの姿があった。しかしルベルが仕事をするときの服装であったからかおはようと近所の人に挨拶する程度で終わった。
歩調を速くする。 ルベルは依頼者の元へ急いだ。 誘拐されたという愛娘がルベルの中で妹と重なったのだ。
「うわぁ、でっけー」
考え事をしているうちに依頼者の家に到着した。 ルベルは目の前の大きな邸を見てポカンと口を開けていた。
「奪還屋の方でございますか?」
横から老いた声がかかり、ルベルはそちらに顔を向けた。
そこには燕尾服をきっちり着た老いた男性が立っていた。老けていてお世辞にも若者をは言えない老人だった。どことなく気品が漂うがこの邸の主人にしては何かしっくりこない。
「そうですけど……」
「わたくしはこちらで仕えさせて頂いております、執事にございます。さ、どうぞ。中へ」
ルベルに頭を下げたあと執事はルベルを邸の客間へ案内していく。 その間にルベルは執事から今回誘拐された愛娘の話を聞いていた。
彼女は大人しく、好奇心旺盛。そして引っ込み思案な性格らしい。使用人と共に外出した時に行方不明になったらしい。一緒に外出したその使用人は犯人に殴られたようで、骨をいくつか折ってしまっている。
「こちらにお待ちください。主人をお呼び致します」
ルベルにドアを開いて、中に入る。執事は再び頭を下げてその場から立ち去った。
広い客間でルベルが一人。勝手にソファに座るわけにはいかず、興ルベルは興味も価値もわからない壁に飾られている絵を眺めていた。
「それにしても金持ちってやべぇな」
天井のシャンデリアは大きな窓から入る陽の光でキラキラと輝き、ふさふさした絨毯はあるくだけで心地が良い。
「お待たせしましたか、奪還屋さん」
「いえ」
ドアをノックしないで入ったのは美人な女の人。金髪が輝き、ルベルに印象を与えた。続けて入ってきたのはルベルと同じ赤髪の男性。きっと彼らが今回誘拐された娘の両親だろう。
男性は女性に入る際のマナーについて言っていたが女性は聞かない。
夫妻がルベルにソファへ腰をかけるように促した。ルベルが座ると丁度、執事がケーキと紅茶を運んできた。
「貴方が依頼を引き受けてくださる奪還屋の方ですか?」
「はい。依頼内容は伺っています。できれば詳しく事情を聞かせていただけませんか?」
「はい――」
男性は一見冷静で、ルベルの質問に答えていく。ルベルは詳しい話がだいたい分かってきて、居場所は情報屋に調べさせるか、と考えていたときに女性が「あの子は西区の倉庫にいるんです!!」と切羽詰まった様子でルベルに言った。
「犯人が言っていました!!それにその場でしか聞こえない、工事をする重機の音も電話に……っ。どうして治安部隊は動いてくれないんですかっ!?」
半ば泣き叫ぶように女性はルベルに訴えた。ルベルは何も答えない。
その情報が正しいという確証はないが、可能性としては考えられるかもしれない。 なぜならこの都市内で現在工事をしているのは西区の倉庫周辺道路だけだからだ。
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