エピローグ
 

裏世界にも職業がある。

例を挙げるならば、マフィア、情報屋、始末屋、運び屋、伝言屋、代理屋など。
彼らは裏世界で真面目に生きている、と私は思う。実際、私もその一員である回収屋のサブラージだ。現在進行形で必死に働いている。



「これ、もーらい!」

「あ!!ちょ、ちょっと、僕の仕事!」

「これも私の仕事なの!!じゃあねー」



私は運び屋のベルデから小さな小包を頂戴して、すぐにベルデから逃げた。ベルデは狙撃手だからすぐに彼の視界から消えないと撃たれてしまう。現に、私のうしろでライフルを構えているのだから。
道の脇道へすぐに逃亡。植えられた植物に隠れて走る。振り向くとベルデは焦った様子で携帯電話を使っている。今にも泣きそうな顔をして。
大人が、しかも男がその歳で泣きそうになるなんて。情けないのー。

私も携帯電話を取り出して依頼者に連絡を入れる。



『もしもし』

「もしもし、助手?小包は回収したから今からそっちにいくよ」

『お疲れさま。なるべく早くね。僕の上司が駄々をこねるから』

「わかってるよ」

『転ばないように』

「ガキ扱いしないでよ!!」



なんかムカついたからブツッと携帯電話を切ってやった。
まったく、この歳になって転ぶほど私はガキじゃないっての!むしろレディ!

中央区にいる助手とは西口公園で待ち合わせをしてる。西区のここからはそれほど距離はない。追っ手もなし。今日は難なくクリアかな。



「おっ!サブラージじゃないか!」

「あら。お仕事?」

「左都!……と、ロズ。どうしたの?とくに左都。もう補導される時間だよ」

「同い年のサブラージにいわれたくないよ、面白いこというよね。あっははははは!」

「彼女の塾の帰りにたまたま会ったから一緒についていってるのよ。それに夜って楽しいし」

「……ああ、そう。2人とも早く帰りなよ?」

「ぶっははは、サブラージも仕事頑張ってねー」



一般人のくせに裏世界を少しだけ知っている親友の左都は伝言屋のロズと一緒で、互いに手を振ってから別れた。


各地区にばらまかれた爆弾を回収してから早二ヶ月が経っている。
北区は爆弾により犠牲者もだしたが、今は復興されつつある。あの北区の爆弾のせいで、北区のマフィアの頭は死に、次期当主だった女帝も死んだ。北区のマフィアは解散され、他の西区、東区、南区のマフィアで縄張り争いが行われている。その縄張り争いのどさくさに紛れて紫音たちがマフィアを殺す第三者になってるんだとか。
ちなみに、ガンマも死んだ。爆死した。
私たちも無傷で帰還できたわけではなく、所々怪我はしたけど二ヶ月もあれば完治してしまう。

日常に戻ったわけ。



「あ、帰ったら学校の宿題しなきゃ」



もう目的地もすぐそこ。
今回は珍しく誰の邪魔も入らないでスムーズに仕事ができた。本当に珍しい。



「ッ!!」



やっぱり、邪魔が入らないで仕事ができる、なんてことはないみたい。



「よぉ、サブラージ。黙ってその小包を渡せ。たまには俺だってスムーズに仕事してぇんだよ」

「それ私も同じ。ルベルが退いてくれれば夢が叶うんだけどな」

「はっ、言ってろ」



私の目の前にいるのは、宿敵というか、いつも私の邪魔をする奪還屋のルベルだ。

二ヶ月前、確かに彼はガンマと戦い、爆発に捲き込まれたはずだった。けれど今、こうして助かっている。どうして、どうやって助かったか、だなんてことはどうでもよくて、とにかく私は私の大切な人が生きててくれて純粋に嬉しい反面、今はやっぱり苛々する。

でも、やっぱり嬉しいのかな。

それが回収屋である私の日常。

そして奪還屋であるルベルの日常。


|