Each proof
 

助手から無理矢理買わされた情報をルベルは紫音たちにも渡すと、西区の残りとロズが一人で爆弾の回収をしている南区を任せた。



「おいベルデ、トラックの中にバイクねぇか?」

「あ、ある――」

「ありますよ。俺が使う予定だったが……。ルベルが使うか?」

「おう」



台詞を奪った上、受け答えをするコリーのせいで涙目になるベルデをサブラージが「元気だしてよ」と慰めていた。

ルベルはトラックからバイクを引きずり出すと、それにまたがり、ベルデを慰めていたサブラージにヘルメットを投げた。難なく投げられたヘルメットを受け取ったサブラージは「え」ときょとんとした顔を浮かべる。



「俺とサブラージで東区に行く。後は任せたからな」

「ああ、行ってこい」



紫音はルベルの意見に納得したと、頷いてサブラージの背中を軽く押した。その際「泣き虫なベルデは私に任せておけ。ヘルメットの被り方はわかるか?」と口を緩めた。「わかるよ!!」と反抗的に頬を膨らませながらサブラージはヘルメットを被る。
ルベルがすでに乗っているバイクへ、背が小さいサブラージは馬乗りをするようにして跨ぐ。「しっかり掴まってねえと落ちるからな」というルベルの言うことを素直に聞いて、サブラージは遠慮がちにもう一度後ろを振り向いた。
ベルデが人の良さそうな笑顔をしてサブラージに手を降り、紫音は煙草の煙を吐きながら僅かに笑った。
ルベルがバイクを発進させて紫音たちの目の前から消えた頃、ふと黙っていた黄果が呟いた。



「彼女は何度みてもユアンにそっくりですね……」

「ええ。それにしてもベルデは仲が良さそうだったな」

「え、えっ?ちょっと悩みを聞いただけだよ……。それに、サブラージはサブラージ。ユアンは……もういないん、だからさ」



すぐに生意気な事を言ったと謝るベルデを、隣に立っていた紫音が笑った。その笑みは、優しかった。





















「ていうか、なんで近い北区じゃなくて東区なの?」



バイクからひょいっと降りたサブラージはルベルにヘルメットを返しながら風に吹かれていた時に思った疑問を口にした。ルベルは「あぁ?」と相変わらず荒い口調と鋭い目付きをサブラージに向けたが、とくに敵意がないことを知っているサブラージにおびえた様子はない。



「なんで、って、そりゃあ……北区にはガンマがいるだろ」

「あらやだ。オニーサンったらマフィアが怖いの?」



クスクスと笑うサブラージにルベルは大声で「違ぇよ!!」反論。サブラージは「どうだか」と嘲るような笑みを戻さない。



「だから、俺は今もガンマを許してねえ。だから出会い頭に殺そうとすると思う。衝動的に。でも今は復讐よりも爆弾をなんとかしなくちゃいけねえだろ?でも北区に入ったら奴と会う可能性がある。だから避けたんだっつの」

「え……。ルベル、成長したんだね……」

「あぁ゙!?」

「そんなところまで考えられるようになっただなんて」

「黙れマセガキ!!おら、行くぞ!」



くるりと向きを変えて歩き出すルベルに苦笑いでサブラージがついていく。――
ちょうどその時、小さいが突然五秒にも満たない音がした。小さいといっても、それは遠くから聞こえた巨大な音。ドォンと地響きのような音。視界の端に見える巨大な雲。否、煙り。黒い、煙り。橙色に染まろうとする空に延びる、煙り。



「な、なんだ、よ」

「ルベル、もしかして煙りがでてるあっちって、……北区?」

「は……?」



ルベルが頭を働かせようとしたとき、携帯電話が鳴り響いた。画面にはロズの名前が。



「おい、どうした?」

『あらルベル。今日も素敵ね!それより用件だけ言うわ。今険しい顔をした男の人たちに追われてるのよ。モテ期かしら』

「用件だけ言うんじゃねえのかよ」

『そうね』



ロズは一旦区切る。区切っている間にいくつかの銃声が電話越しにルベルの耳へ届いた。



『しつこい男は嫌われるって彼らは知らないのかしら。まあいいわ。いま聞こえたでしょう?そういうことよ。だから爆弾については少し遅れるかもしれないわ。それじゃあね。健闘を祈るわ』



プツンと電話が切れるとたて続けに知らない番号から連絡が入った。ロズなら強い、大丈夫だろう、と思った瞬間だ。



『もしもし、奪還屋ですか?私は情報屋です』

「は!?情ほ――」

『助手に連絡させようと思ったのですが、彼は今遊んでいますので僕から。まったく、あんなにはしゃがなくても』

『はしゃいでないから、あんたは早く隠れて、……ったく、しつこいな!』



びちゃあっと液体がぶちまけられた音が電話越しにもはっきりととどき、血生臭い場面を脳裏にうかべながらもルベルは情報屋本人が電話をしているという事実に実感がわかなかった。情報屋はなにもかもが謎の存在で、声をきいたことのある人間はルベルの知っている限りでは助手だけだろう。



『はいはい、隠れますよ。助手は玩具を独り占めにしたいらしいです。まだまだ子供ですね。そんなことよりお知らせします。ガンマがそちらに向かっています。ちなみに各地区には北区のマフィアがあなた方の爆弾に関する情報をキャッチして反抗している様ですよ』

『右都、伏せろ!!』

『おっと』

『――だから、はやく隠れなって。ほら、またあいつら来るから!』

『これが終わったらカルシウムを摂って欲しいところです。こちらも少し忙しいので失礼しますね』



助手の珍しい怒声に続いて笑うような情報屋の声を最後に、相手が一方的に電話を切った。
ルベルはしばらく携帯電話を見つめていたが、北区の煙りやロズのいる南区に目を向けた。隣にいるサブラージは首を傾げた。どんな会話をしたのだと、顔に出ている。



「紫音たちも忙しいだろうな。サブラージ、さっさと爆弾を片付けようぜ」

「わかった」



助手もかたがつくまでは連絡はできないだろう。彼の武器である刀が活躍している音は飛び散る液体の音で大いに確認できた。



「ちょっと待てよ、そこの野郎とガキ」

「っだれがガキ!?」

「その声は……、てめぇ!」



背後からする別の声に、反射的にサブラージは振り返ったがすぐに後悔した。ルベルは殺気を露にして隠そうとせず振り返る。

そこにいるのは、ついさきほど情報屋が予告したガンマだった。



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