足枷
 


「だっ、だって、私、あの子を元にした人造人間だから、クローンだから……!!あの子が被験者になったときと容姿は変わってないよ!?この髪も眼も皮膚も声も背丈も全部全部全部全部、あの子と同じなの!!貴方が大事に思っていたあの子なの!辛いでしょ?死んでしまったあの子とおんなじなんだもん。貴方がいままで私の顔が、声があの子と同じだって気が付かなかったのは、貴方が思い出したくなかったからじゃないの!?思い出すこともできない、したくないくらい辛かったからじゃないの!?いままで私を回収屋として見ていれたのは、そういうこともあって、過去の記憶に蓋をしていたからじゃないの!?あの研究所は私が作製された研究所だった。だから私は入ることを拒んだ。でもガンマが言ったんでしょ?蓋は開けられたんでしょ?気付いてしまったんでしょ?もう、夜を走れない……。私は、私自身は貴方が好きなの。だから拒絶してほしい!いままで隠してきて、それがなんだか貴方を騙しているようで悔しかった。あの子にも、貴方にも。このまま、苦しいままでいたくない。いっそのこと、私を拒絶してほしいの!私にとって、それはこわい。けれど拒絶しないでこのまま貴方の胸を締め付けるのは――」



プツンと、張り詰めていたなにかが切れた。
サブラージの口からは止まることのない悲痛が声となってルベルの耳を刺激した。ボロボロと流すサブラージの涙を、左都は袖で拭ってあげていた。傍観を決め込んでいる助手はその一連に傍観者らしく口出しをしなかった。



「……サブラージ、俺さ、正直言うとお前とユアンを重ねてねぇんだよ」



サブラージがあの子、と呼んだユアンの名をはっきり言葉にし、ルベルは濡れた目を彼に向けるサブラージを見ながら続けた。



「蓋がどうとかってのは、サブラージの言う通りだろうけど、なんつーか……。ぶっちゃけユアンとサブラージって似てねぇぜ?容姿はともかくユアンの方が可愛いげがあるしな」

「……シスコン」

「うっせーよ!!とにかく、俺はサブラージを拒絶しねーから。それに、俺もお前が好きだ。普段のサブラージが。だからそんな内気になるなよ。やりにくいだろ。なっ」



ニカッ、と笑みを浮かべてルベルはサブラージを落ち着かせようとした。サブラージも、泣いていた顔を必死で笑みに持っていく。

ユアンとサブラージを重ねて見ていない、拒絶しない、その言葉がサブラージは嬉しかった。一番気にしている人にそう言ってもらえたことが救いのようだった。



「よく分かんないけど、やったね、サブラージ!」



詳しい事情は聞かされていない左都もサブラージの浮かべるまだ固い笑みをみてハイタッチをした。涙が止まらない、とサブラージは左都の胸に顔をうずめて泣き出す。左都はサブラージの背中を優しくさすりながら「っていうかさ」とルベルを見た。



「さっきお互いにお互いのことを好きって言ったけど、それって……」

「……っえ?」

「そんなの決まってんだろ」

「「好敵手」」

「ですよねー」



ルベルは「は?なんだよ?」と左都に聞いてみるものの、左都はすでに声を出して笑っているところだった。



「で、真面目な話。ガンマはどうするの?」

「殺す。あと爆発も止める」

「言うと思った。やるなら今からじゃないと遅れるよ?それにルベル一人だけじゃ……」

「……わ、私、爆弾を分解できるし、回収もでき、る。だから、ルベルに協力するよ」



涙を自分で拭きながらサブラージは途切れ途切れに自分も参加すると表明した。



「僕は上司の気まぐれ次第だね。とにかく左都を中央区に送っていかないといけないから僕はこれで。じゃあね、二人とも。ロズにも協力を要請してみたら?」



助手は左都の腕を引きながらひらひらと手を振り、そさくさと出ていってしまった。



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