はなし
 

サブラージは大人しく助手が持ってきたお茶を口につけた。その表情は相変わらず俯いていてルベルと目を合わせようとしない。ルベルはサブラージの変わった様子を心配した。それが妹のユアンと重なって見えたからか、否か――。



「……そんなの、駄目だろ。人造人間だって、俺たちと変わらねえ。ただ、生まれ方が違うだけだ」

「そうだね。ロズみたいな人だっているし、神父さんみたいな人だっているしさ」

「てめぇ、勝手に調べたな」

「調べたよ。なんなら代価として僕の過去を話せばいい?」



ルベルは助手を睨んだ。助手は動じず、ルベルの目を真っ直ぐ見た。そんな堂々とした助手の態度に舌打ちをすると続きを話すように促した。



「興味ねえよ」

「じゃあ続きね。絶滅させる方法は、中央区以外の北区、西区、東区、南区の各場所に北区マフィアオリジナルの強力な爆弾を仕掛けて……ドカーン」

「……人間も中央区の外へ出たりするだろ」

「ここ最近、交通手段に規制がかかってるんだよね。ルベルは入院してたから気付かなかったでしょ。それにその作戦決行日は今日明日だから」

「はあ!?」

「『赤い人』が動けないうちにやっておこうって話。ちなみに僕を含めて人間の仕事屋は中央区に居なきゃできない仕事を依頼されてる。紫音たちも中央区にいるんじゃない?」



窓の外に目を向けていた助手はルベルに戻すと、爽やかな笑顔を見せた。笑顔だけを見るのならば、それは好印象であるものの、話題がその印象を与えようとはしない。ルベルは眼帯の紐が通る頭をかいてからため息を吐いた。



「つか助手は人間なのかよ。人間なら情報屋の仕事はどうした」

「僕も左都も上司の情報屋も人間。ちなみに僕は情報屋じゃなくて情報屋の助手。仕事はサボってきた。どうせ時間稼ぎの要らない仕事なんだしやってもしょうがないでしょ」



どうやら依頼者より情報屋と情報屋助手の方が上手だったようだ。真相を理解している助手は、こうしてルベルに報告をしている。
ふと、助手は左都の腕にしがみつくサブラージを見ると手を差し出した。
相変わらず、爽やかな笑顔だ。奇妙だと、違和感をルベルが眉を潜めた。



「サブラージ、ルベルから盗んだ携帯電話を貸して」

「……あ、うん」

「おま、いつの間に!?ぶっ飛ばすぞ!!」

「ご、ごめん……」

「いや、サブラージじゃなくてよ……」



さらに左都の腕を圧迫するサブラージはやはり普段とは明らかに反応が違い、ルベルに脅えていた。左都は珍しく苦笑いをしてサブラージの頭を優しく撫でる。ルベルは困って目線を泳がせた。



「ほら、見て。ルベルの人気者っ」

「うわ、なんだよ。このメールと着信の量!」



携帯電話を操作した助手がルベルに見せた画面は二桁を余裕で上回る受信の量。これがすべて時間稼ぎなのだ。



「これで僕の話は終わり。あとどう動くかは、ルベルにお任せします」



携帯電話をそのままルベルに返すと、助手はサブラージへ目線だけ動かした。まるで「次はサブラージだよ」と言わんばかりの目線だ。サブラージはそれを感じ取ったのか、おずおずと小動物のようにゆっくりルベルを見上げた。



「あ、あの……」



振り絞ったような声は、掠れていた。サブラージはすぐに目をルベルから背けると、床を見る。



「……ごめんなさい。私の顔、あの子と同じだから……、貴方に辛い思いさせてると、思うの……。だ、から」

「いや、まてまて。サブラージ、何言ってんだよ。よくわからねぇんだけど。なんで謝るんだよ」



え、とサブラージが顔を上げた。


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